「****、******、」

彼女を殺す夢を見た。

彼女は苦しい筈なのに、俺に首を絞められて笑っていた。
手を振りほどこうとしても、金縛りに遭ったように体は言う事を聞いてくれない。それはきっと、夢だからであろう。
全部夢だ、俺はまだ彼女に手をかけていない。―――否、もしかしたら俺が記憶から消しただけで、きっとどこかで彼女のことを殺してしまったのだろう。認めたくはないが、そう思った方が妙に納得がいった。
苦しそうな彼女の顔に、どこか興奮を覚える自分がいて、そんな自分に嫌気と吐き気が差す。早く目覚められるなら目覚めたい。彼女がつけているダイヤのついたピンキーリングが嫌にちらついて、俺の心を燻らせる。

「……ありがとう」

彼女は絞められた喉から、命からがら声を出した。それが何故俺への感謝の言葉になるのか、一瞬分からなかった。彼女がその次に、「殺してくれて」という言葉を付け足すまでは。
涙すら流せない俺に、夢の中の彼女はいつまでも優しく微笑んでいた。それはまるで、愛しい我が子を見る聖母のように。俺は彼女に声をかけようとしたが、声すらも出させてくれないらしい。いくら口をパクパク動かしてみても、肝心の音は出なかった。そんな中彼女は、何も言わなくていいと言う様に首を小さく横に振った。

「大丈夫、もうこれであなたは私から解放されるから」

それは俺が望んだことだとでも言うのか、彼女は俺を諭すようにか細い声で言った。
違う、俺が本当に望んでいるのは―――、


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