prologue


これから始まるのは、終わりの始まり。
終わるはずのなかった物語は終わり、限りの無い物語が幕を開ける。


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『まもなく閉館のお時間となります、本日はご来館ありがとうございました』


このだだっ広い空間に、女の声のアナウンスが響く。今日のアナウンス担当はあの人だったはずだから、あの人は今頃放送室にでもいるのだろう。

芥川龍之介、『歯車』。結婚する友人がいない自分には全く縁のない話だが、何となく目に入ったのがこの文庫本だった。
自分と同じ苗字の作家にそれほど「興味があるわけでもないが、どこか親近感は不思議と湧くもので、彼女も似たようなことを思っているのかもしれない。それはお互い変わった名字を持ったもの同士の宿命である。
私の場合はまあ芥川より太宰の方が好きなのだけれど。

「芥川さん、今日もまた一日動かなかったでしょ! 今日と言う今日はお父さんに叱ってもらいますからね!」

図書館でやかましい声を出す奴がいるかと言わんばかりに、私は声の持ち主である彼女の方を不機嫌な顔で見つめた。
彼女はそんなことを気にも留めていないようで、私に説教をしてくる。

「司書としての役目を果たさない上に図書館の一角を自分の居住地みたいに改造して……どうして逆にそこまでしてお父さんは怒らないんだろう……」
「簡単なことですよ。私が有能だからです」
「そういうことを自分でさらっと真顔で言うのが気に食わないー!」
「事実じゃないですか」
「ナルシスト!? 前からずっと思ってたけどナルシストなんですか!?」


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