『見ていないと仮定して話しておくね。実はコント・ド・フェから送られる手紙には特徴がある。コント・ド・フェから送られる手紙というと仰々しいけれど、簡単に言うと正式に僕や前の管理人さんが出した手紙ってことね。招待状がほとんどだけど、コント・ド・フェから正式に出されたという証拠が、実は手紙には隠されていてね。
その確認の方法の仕方は、ちょっと古典的なんだけど、炙り出しと呼ばれる技法だね。全部炙る必要は無くて、手紙の方の紙の左端を軽く炙ると、コント・ド・フェが売りにしている観覧車のイラストが浮き出てくるってわけ。変なところで凝ってるでしょ?うちの遊園地』

つまり、縁さん曰く、コント・ド・フェが何らかの意図を持って出した手紙は、それが本物だと分かるような仕掛けがされている。なぜそのような仕様を採用したのかというと、最近は招待状の偽物が多く出回っているらしい。コント・ド・フェ自体がかなり人気の或る遊園地のため、悪用を防ぐようにこのような仕掛けが施されているらしい(これも縁さんのメールから)。

『というわけでこのメールを見たなら、自分の招待状を炙ってみることだね。もう少ししたら灰音がお風呂に入る時間だから、心配をかけたくないんだったら一人でやることをオススメしようかな。
なんちゃって!たまにはお義兄ちゃんって呼んでもいいんだよ!』

また文章のテンションが戻った。やはり良く分からない人だ。

「……炙り出し」

縁さんが古典的と言ったのも頷ける、未だにそんなシステムが採用されていたとは。しかもこんな身近に。今まで招待状を炙り出ししてみようなんて考えたこともないし、試したこともない。縁さんにどうして俺が招待状を懐に持っていたことがバレたのか知らないが(いやたぶんバレていない。そもそも灰音さんの風呂番の日ということも知らないだろう)、いつも煙草を吸うために携帯しているライターを取り出して、ゆっくりと手紙に揺らめく炎を近付けた。

『もし偽物だったら―――、気を付けてね。繰り返しになるけど、コント・ド・フェの歓迎会は強制参加じゃない。無理して参加する必要は無いんだ。怖かったら来なくていい。少しでも不安を覚えるなら僕に会いに来なくていい。僕は、君の意志を尊重するよ。おやすみ海音寺君、君に良い物語を』

「―――縁さんって、変なところで灰音さんと似ててお節介だなあ」

観覧車は、俺の目には映らなかった。


prevback|next


(以下広告)
- ナノ -