それでも可能性が見いだせたなら、知らないことは少しでも情報を集めて確実に行動するべきだ。彼女がそれで救えるのなら、俺は虱潰しになる作業でも喜んでするだろう。なんせ今こうして彼女を救うための旅でさえ、彼女が救われる次元を求めた虱潰しの作業でしかないのだから。
『ここから導ける推測はいくつかある。君が答えを出しているかは知らないけど、とりあえず僕が君に伝えたいことを言うね』
縁さんのメールはここからいくつか行が空いて、こう記されていた。
『まず一つ。僕たちの中に君を陥れようとしている者がいるということ。僕たちというのはまあ分かるだろうけど、コント・ド・フェの面子の話ね。この手紙を出せるのはコント・ド・フェの面子だけだから、本当は僕の一つ前の管理人か、僕に承諾を取ってからその人に招待状を送れるんだ。別に招待状自体大したものじゃないよ、だって歓迎会の内容なんていわばお偉いさんのスピーチがあって、後は飲んだ食べたの大騒ぎになるだけだから。そんな集まりの招待状なんて、別に特別でも何でもない』
「……」
俺にとってはそんな集まりが命を削ってまで取りやめさせたいものなんですけれど、と縁さんに顔を合わせていたら言っていただろうか。しかし企画をしているコント・ド・フェ側の縁さんがそういうのなら、きっとコント・ド・フェ側としてはそのつもりなのだろう。
『だから記録にないだけで誰かが間違えて送っただけ、という推測も十分に出来る。なんせ陥れる計画なんて証拠も何もあったものじゃないからね。しかも何のために君を陥れるのか僕には知ったこっちゃない』
薄情な縁さんの文面は、どこか理系らしさを臭わせた。俺の様に恨み辛みで物事を決めつけない当たり、彼は少なくとも俺より利口に生きている。
『君としては、というか僕にとってもそうなんだけれど、願わくはただの手違いであってほしいよね。僕たちの中で何か画策している輩がいると言うのも感心しない話だし。心配しなくても、君の友人の与謝野君はこれっぽっちもそんなことは考えてないと思うよ。でもきっと話したらややこしいことになると思うから、このことは話していないんだけれどね』
ここでまた一つ行を空けて、
『次に二つ目だね。これはまだ言ってないことだったはずだから、報告がてら君に教えておこう。コント・ド・フェの招待状、君は灰音の招待状もその目で見たかな?』
その場で質問されているわけでもないのに、縁さんが本当に脳内で語りかけているように感じて、少し気味が悪いとすら感じたが、彼の刷り込みを舐めてはいけない。彼は一度会ったが最後、忘れられない個性と話し方の持ち主なのだ。
ちなみに俺は灰音さんに届いた招待状も目を通している。とはいえ実際触った訳ではない。遠目で自分と同じ文章であることを確認したに過ぎない。