『さて、どうして僕がわざわざメールを送ったかだけど、今日言っていたことについて追記したいことがあるんだ。何の話かと言うと、招待状の話。ほら、灰音には正式に僕から出したって言ってたけど、君には出した覚えが無いって。それで僕の記憶違いかもしれないと思って、帰ってからデータベースを調べたんだよ』

そして急に展開されるまじめな話に、こういうのは縁さんらしいな、とくすりと笑ってしまったが、それこそ彼のペースに乗せられている自覚もある。やはり彼は詐欺師のような―――と言えば聞こえは悪いが、おどけて人を笑わせる道化師のような男だ。
先程縁さんがこのサンドリヨンの屋敷内に訪れたとき、彼はこう言っていた。

「そうだ、最後に忠告。これは後から分かったことなんだ、灰音や他の人たちには確かに僕が招待状を渡したんだけど、海音寺君、実は君に渡した覚えは無い」

この言葉が本当ならば、俺に届いた招待状は、コント・ド・フェの誰から出されていたものか分からない。灰音さんのところにはちゃんと記録があったらしいけれど。

『ああ、どうして渡した覚えが無いのに手紙が二通届いていたことは知っていたのか、という質問があるかもしれないけれど、単純に灰音から聞いただけだから、そこは安心してね。手紙が来てから灰音はすぐに僕に確認を取ってきたよ。手紙のことと言うよりは、僕がコント・ド・フェの管理人をしていることの確認ね』

確かに灰音さんは、縁さんが現在コント・ド・フェの管理人をしていることは聞いてなかったようなリアクションを取っていた。それで不思議に思った灰音さんが、縁さんにそれが本当か連絡を取った、ということだろうか。そこの成り行きで「招待状が二通来たんだけど、これってお兄様が送ったの?」「私が招待されるのは分かるんだけど、海音寺くんが招待された理由って何なの?」という質問が灰音さんの口から出た。そう推測するのが自然か。

『灰音から色々と質問責めにされたけれど、僕が知っていることはひとつ。僕は前の管理人に言われてやったって前も言ったよね?それ以上の答えはないし、どうして海音寺くんに招待状が送られたかも分からないんだよ。そしてデータベースを見た結果だけど、僕の予想通りだった。こちらからあの招待状は送られていない。少なくともデータ上はね』

はあ。つまりは、縁さんは俺に招待状を送っていないのは事実らしい。この話だけ聞くに、俺は今すぐ前の管理人さん(確か灰音さんの父親の知り合い?政府の人間?とか何とか)に連絡を取りたくて仕方が無くなった。歓迎会の選考基準と招待状そのものについて。
俺が過去に―――と呼べるものかは分からないが―――招待状を貰ったことは何度かある。しかしその次元では縁さんはコント・ド・フェの管理人などではなく、サンドリヨンによく出入りする俺の専門医だった。つまり縁さんがコント・ド・フェ側に回ることすら今回が初めてで、何もかも未体験なのだから訳が分からないのは当然かもしれない。


prevbacknext


(以下広告)
- ナノ -