「……どうもしてねえよ。そもそもモテてるのはお前の方だし、連絡先交換してくださいって言われてたのはお前も一緒だろうが」
「そうだっけ。てっきり結の方が多いと思ってた」

与謝野結。ヨサノユイ。
俺の大学時代の親友で、コント・ド・フェに勤めている。今ではコント・ド・フェにある従業員用の宿泊施設に身を寄せているらしく、ネットで話すことはあっても、俺がコント・ド・フェに行くことが無いため、顔を合わせて話すことなんてなかったのだ。
調子の戻った灰音さんも、結の方を改めて見て、自分たちの話を聞いていなかったためついてこれてなかったようだが、とりあえず彼が俺の友人で、こうこうこういう関係です、というのは話しておくことにした(ややこしくならないように祈るけれど)。

「それじゃ、コント・ド・フェに行ってから何か出会いはあった?キャストなんだったらお客さんと話す機会も多いから大学生の時より尚更出会いはあるよ?」
「……」

 結は何故か、それを聞いて黙ってしまった。何か気に障るようなことを言ってしまったのだろうかと何とか彼をなだめる言葉を探そうとしていたら、彼がぽつりと口を開いた。

「好きな人っつーか、気に食わないヤツはいる」
「それって大学の時と変わってないじゃん……」
「違ェよ、大学の時はただ単にタイプが合わない、言ってることがずっと平行線、言葉が通じない、みたいな野郎は何人か見てきたが、そういうのじゃねェ」
「と言うと?」
「見てて腹が立つ。アイツがキャストとして客に愛想良くしてる時も、オレの担当場所に面倒なゲストが来た時に文句を言いながら何食わぬ顔を作って対応するのも、オレの尻拭いで違う部署のヤツらに謝りに行くって言って結局オレの手を煩わせないようにするのも、何か悩みを抱えているくせにオレに何も言わずに一人で解決しようと必死に空回りしているのも、今回のそれだって、全部イライラするンだよ」
「……結、それ本当に言ってる?」
「本当も何も、オレがそんなことで嘘を吐くかよ」

隣で何となく話を聞いていた灰音さんも、さすがに察していたようで、にこにこしながら結の訴えを聞いていた。
それはどう考えても俺の抱えてる汚い感情と同じだと思うんだけれど、とこの場で言うのは野暮なのだろうか。今回のそれ、というのはこちらが知らない事情なのでどういうことなのか察することは出来ないが、きっと彼が挙げたような事柄と似たものなのだろう。
 だとしたら―――気付いていて隠している自分の方が、余程汚いと思うまでそう時間はかからなかった。今度、ちゃんと言おう。祝福された輝かしい未来が待っているかもしれないこの世界の彼女に、俺の気持ちを、あの事件が起こるまでには。

「……どうした?」


prevbacknext


(以下広告)
- ナノ -