こういう日常がずっと続いていたならば、俺もこんな表情を噛み殺さずに、それこそ白昼堂々と喜ぶことが出来たのだろうか。そう考えてみてもむなしくなるだけで、考えるだけ時間の無駄か。そんな思考を、これまで何度ぐるぐると廻ってきたことだろう。

「……俺は」
「ん?海音寺くん、何か言った?」
「―――いえ、何も。ちょっと考え事です。そういえば縁さんは、今日はコント・ド・フェの方で食事があるとか言ってましたけど、何か聞いてます?」
「私も詳しいことは聴いてないんだけど、仲の良い面子でレストランを取ってあるから、そこで親睦を深める〜的なことを言っていたような気がするわね」
「仲の良い面子ですか。あの人、仲良い人いるんです?」
「……海音寺くん、目の前にその妹がいるのによく言うわね」
「気を悪くされました?」
「別に。言ってみただけだけど、お兄様って海音寺くんが思っているよりすごい人なのよ?私も密かに尊敬してたりするから」
「へえ?」

灰音さんはそう言うけれど、灰音さんより自分の方が彼の偉大さに気付いている自信もどこかであった。別の次元で何度も彼の姿を見ている俺は、それこそ家族のように彼には世話になった。苦手なのは変わらないし、今でこそ何とか彼との関係を保てているが、どうしてそんな彼が―――コント・ド・フェで働いているのか。欲を言えば、彼こそコント・ド・フェで働いててほしくなかった人だったのに。やはり今回のルートは、どこかねじれている。否、もしかしたらこれがむしろ、正規のルートなのかもしれない。
……そうなると、この上なく面倒くさいルートではあるのだが。

「私も最近行ってないから、どんな人がお兄様の周りにいるかは把握できてないのだけれど、お兄様は『たぶん灰音は知らない人だよ』って言ってたから、若い人なのかもしれないわ」
「成程、それじゃ彼はいそうですね」
「彼?」
「……友人です」
「え、海音寺くんの友達がコント・ド・フェにいるの?私、聞いたことなかったんだけど」
「まあ話してませんし」
「話してくれても良かったのに!」

 貴女に話したら話がこじれそうだったから言わなかったんですけどね。

「まあその話は置いといて、そろそろ店に……」

 話を逸らそうとして、改めて正面を見た時、そんな友人と目が合った。


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