かか、と笑った彼の顔が俺と似ているのは、きっとわざとだろう。実験体としての人間の体を模している、そう考えると何ら不思議なことではなかった。違う部分を挙げるとすれば、狐の尾が生えていること、喋り方、和装、そして人を―――俺を見下す態度。自分と似ている部分にも嫌悪感を抱いていたが、一番気に入らないのはやはりこの性格だった。

「さて、待ち人がおるんじゃったな。ここからは我の忠告じゃ。心配なぞしておらんが、汝に対して愛情は持ち合わせているゆえ、親からの小言とでも思うが良い」

彼はまた一つ大きく息を吐いて、改めて笑うことをやめた。

「我は神とは言え、人間が好きとは言え、時空を操れる神ではない。おそらくそれは、今まで汝に与えてきた等価を見ればわかるはずじゃ。正確には、時空や事象を操れるほどの等価を人間は持ち合わせていない、という話なのじゃがそれは置いといて。つまり何が言いたいかと言うと」

彼は俺の頬にそっと触れて、誰にも聞かれないように小声で呟いた。

「この先は気を付けろ、我は先を見通せても、変えることは出来んのだから」
「……忠告すると言っても、その中身は教えてくれないんだな」
「教えてしまえば、我が不正をしたことになるからのう。対価も無しにそんなリップサービスはせんよ」

リップサービスの意味をはき違えている気がしたが(実際の意味はお世辞やおべっか)、別にどうでもいい話だった。というか、自分の姿で馬鹿丸出しだと、何だかこっちまで恥ずかしくなる。いや、向こうは間違いと思っていないわけだから、恥ずかしいのは自分だけということか。腹立たしい。

「ただまあ、汝が見たことのない結末になることだけは保証しよう。それに、汝の行動次第で彼女が救われるかどうかは決まる。結局は、我より汝の言動を見返すことじゃな」

我はとどのつまり干渉するに至らぬのだから、とまるで他人事の様に真面目な顔をやめ、また嘲笑の表情でこちらを眺めていた。

「――ご忠告痛み入ります、天狐様」
「愛い愛い、嫌味だと分かっていても人間にそう言われるのは悪い気分ではない」

こちらが腹に抱えてるものを全て把握したうえで、彼はこうして自分に時空を超える力を与えては、救う力を与えては、楽しみにしていた舞台を眺めるように満面の笑みを浮かべていた。単純に言って、気味が悪い。

「さあて、これでも汝とはもっと無駄話を交わしていたいものじゃが、時間が無いのだろう?さっさと行くが良い」
「嗚呼、最後に一つ。俺からの質問にもう一つ答えて頂きたい」
「ふむ、その心は?」
「俺以外に、干渉している人間はいないのか?」


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