頭領がそんなお願い事をこの神社にしていたとは、俺としてはどんな気持ちでこの神社のことを見ればいいのか分からなくなってくる。けれども、未だにマイナスな感情が離れることはなかった。そして俺は彼女と一緒に、賽銭箱に五円玉を入れた。けれども鈴を鳴らす勇気は出なくて、彼女に鳴らしてもらった。その後は二礼二拍手一礼。彼女が今度は何をお祈りしたかは知らないが、俺は代わりにどうか彼女に何も起こらないことだけを祈った。

「……頭領」
「どうかしたの?ちゃんとお祈りした?」
「ええ。ちょっとここの知り合いに用事があるので、先に神社の前で待ってもらえませんかね。あの大きな鳥居のところです」
「? 知り合いがいたの?」
「まあ腐れ縁みたいなものです。すぐに終わりますから」
「そうなる早く言ってくれればいいのに。いいわ、あまり遅くならないようにしてね」

頭領は俺の態度を疑うことなく、そのまま帰り道へと歩いて行った。彼女の姿が見えなくなったのを確かめてから、俺は賽銭箱の後ろにある扉に手をかけ、意を決して勢いよく開ける。
勿論中に人などいるわけがない。いるとしても神主か巫女か、神社の関係者なのだろうが、今回は誰の影も見えない。が、俺の目にははっきりとその尾が、存在を焼き付けていた。

「小僧、汝から来るとは珍しい。どれ、酒でも出してやろう」
「……待ち人がいるから時間がない」
「ふむ、それならどうしたものか。せっかく歓迎してやろうと我が言っておるのに、つれない態度じゃのう」

縁さんから連想されたそのものが、今こうして俺の前へと胡坐をかいて杯を手にしている。全ての元凶が、全能の神が。

「―――さて、汝が我に言いたいことはたくさんあるだろう。どれ、話を聞いてやる。我は今美人を見て、すこぶる機嫌が良い。汝ごと食ってしまいたいほどにな」

ここの神社の名前は、斉狐神社。意味は、斉しい―――等しいもの同士を結びつける狐の住まう神社。俺の寿命と等価交換に、タイムトリップの力を与えた、狐神の寝床である。

「さてまずは、今回の時間旅行の結末についてでも、話そうか?」


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