「……では行きましょうか、お姫さま」
「海音寺くんこそ、他の女の子のことをお姫さまって呼んでるんじゃない?そりゃホストクラブのホストみたいに」
「馬鹿ですね、俺がお姫さまって呼ぶのは頭領だけですよ」

頭領が赤くなっていた。それだから、俺はからかいたくなるんですよ、お姫さま。


「オフで異性と出かけるなんて、久しぶりね!」

頭領は、初めて出かける街を眺めるような目つきで、そわそわしていた。楽しんでいるのだろう。俺はそんな頭領を見て、微笑ましい気持ちになる。

「ちなみに、以前異性と出かけたのは誰と?」
「あら、嫉妬かしら?」
「嫉妬ですよ」
「……本心かしら、それ。まあいいわ、組織の人間じゃないわ、お兄さまよ。幸田縁」
「何だ、縁さんですか。というか縁さんを異性としてちゃんとカウントしているんですね?」
「一応ね。肉親だけど異性であることには変わりない訳だし。それ以前で異性と出かけたのは、あまり覚えてないわ。あったとしても、二人きりではないはずよ」
「では、俺が初めてを奪っちゃったわけですね?」
「……」

頭領は怪訝な顔でこちらを見つめる。彼女の言わんとしていることはその表情から伺えたので、それ以上は敢えて何も言わないことにした。嫉妬しているというのは本心だったわけだし、それを聞いてほっとしている自分もいた。
今なら大丈夫、誰かがそう言った気がして、俺は前からずっと貯めこんでいた一連の言葉を、ここで言おうと決心した。足取りの軽い彼女の後ろ姿を見ながら、感情を悟られないように話し始める。

「ねえ、頭領。今から言うことを、もしものことだとして聞いてくださいね」
「ん、急にどうかしたの?」
「ちょっと思うことがあって。まあ大した話ではないので、友人の相談に乗っている、くらいの気持ちで聞いてください」
「……そう?」

頭領は俺の声のトーンか何かで、ただ事ではない話題を展開すると察したのかもしれない。隠したつもりだったのだけれど、ばれてしまっただろうか。それでも、未知の可能性があるこの世界で、試して見たいことも山ほどあった。俺は唾を飲み込んだ後、恐る恐る、口をゆっくりと開く。


prevbacknext


(以下広告)
- ナノ -