「頭領、早いな」
そう自分の口で言いつつも、どこか違和感を覚えていた俺は、何となくチェーンをかけたまま、ドアを開けることにした。サンドリヨンの部屋は、マンションと似たような作りになっている。と言っても何階もフロアがあるわけではなく、全員がサンドリヨンの屋敷に住んでいる訳ではないので、そこまで部屋の数は多くない。
「……」
ゆっくりと、扉を開ける。そして、もう片方の手にナイフを忍ばせ―――
向こうから見えた表情で、俺は思わず部屋の扉を閉めた。
「……気のせいか」
一度深呼吸してみて、恐る恐るもう一度扉を開けてみるが、―――変わりなく、笑顔の男がそこには立っていた。
「……あの、何でここにいるんですか」
「いや何、そろそろ手紙が到着していることだろうと思ってね。君たちに、僕から詳しい説明をしようと思っていたんだよ」
「じゃあ何で、頭領のところに行かないんですか」
「君をびっくりさせたかったからに決まってるじゃないか、それとも海音寺君は僕のことは嫌いかな」
「……」
この意地悪な言い回し。どこか俺を下に見ている目線。狐につままれたような感覚。姿をはっきりと見なくても、誰かすぐ分かってしまうほどのオーラが、その人からは溢れていた。
「……縁さん」
「そうだよ、君のお義兄さんの、幸田縁。気軽に縁お兄ちゃんと呼んでくれたまえ」
頭領、早く身支度済ませてください。俺、絶体絶命なので。