「確かに海音寺くんが正装してるところ、見る機会ないものね。サンドリヨン自体がパーティーなんて開くことが無いし、誘われたとしても海音寺くんが行くことはなかったから―――」

ふと、自分のスーツをクリーニングに出していないことに気が付いた。急いで仕上げてもらったら間に合うだろうか。頭領のドレス姿は何度か見たことがあるのだが、今回はどんなドレスを着てくれるのだろうか、少し楽しみではある。

「そのピアス、正装した時もするの?」
「あ、ええ、そうですね。俺、このピアス気に入ってるんですよ。これは、自分で買ったものなんですけどね、ほら、前頭領が『海音寺くんは月みたいな人ね』って言ったじゃないですか?あれから月をモチーフにしたアクセサリーが妙に気になってしまいまして、ふとした時に雑貨屋で見つけたものなんです」
「へえ、そんなことまで覚えててくれたの?嬉しい」
「これでも頭領の部下なので」

またからかっちゃって、という風に頭領は笑いながら言う。俺の気持ちを本気で言ってしまえば、この一縷の望みを壊してしまうのではないか、今まで思いを告げてきて何度も失敗したじゃないか、と拒む声が聞こえる。
―――だから、俺はまだこの思いを告げないでおくのだ。

「……とりあえず、コント・ド・フェ側の狙いが何か分からない以上、俺はとりあえず、そのまま招待に預かるしかないですね」
「まあそんな硬いこと言わないでよ、仮にも私の身内がやってる遊園地なんだから、そんな怖いものじゃないわ。……まあ、あの人が苦手なのは、ちょっと申し訳ない気はするけど。大丈夫よ、私が何とかするから」
「ああいえ、そういうことではないんです。ただ、俺が遊園地に行かないから、あんまりどういう印象で行ったらいいかよく分からないだけで。子供の時に紬と行った覚えもなくて」

俺が紬と一緒に海音寺の家にいたのは、そうは言っても短いわけでは無い。勿論海音寺にいた時の方が時間は長いし、サンドリヨンにも最初からいたわけではない(と言っても二代目になってからで換算すると、古参の方ではあると思うが)。

「へえ、意外。紬ちゃんって遊園地好きそうなのに」
「あの子、絶叫系が苦手なんですよ。眼鏡が外れそうになるのも嫌なんだと思いますが、単純に乗り物酔いしやすい体質みたいで。車や電車は大丈夫なんですが、船はどうしても駄目みたいですから」


prevbacknext


(以下広告)
- ナノ -