しばらく戒人が出て行ってからも、何故か沈黙は続いたけれど、彼女はまた頬を赤く染めて、こちらの様子をちらちらと伺っているようだった。

「何を恥ずかしがってるんですか、頭領。あいつの言葉ですか?」
「は、恥ずかしがっては無いけど、やっぱりそういう風に見えるものなのね……」

ぶつぶつと独り言のように彼女は何かを呟きながら、整えられた自分自身の爪を触った。これは彼女の癖ではない、たぶん、何かをごまかそうとしている時の仕草であろうが、今回は特に気にしないことにした。
それよりも。

「コント・ド・フェのことですよ」

コント・ド・フェが歓迎会を開くのは、まあ分からないことではない。そして頭領は設計者の娘。確かに彼女が招待されることに関しては何の文句も無いのだが―――

「俺が招待された理由、何か思いつきますか?」

正直なところ、俺も困惑していた。俺の知らないところで、俺はコント・ド・フェ側に何を想われているのだろう。共通点を見出そうとしても、俺は秘書ではないのだから、頭領と一緒に招待状を送られる意味が分からないのだ。招かれた理由については、頭領の方にも俺の方にも詳しくは書かれていなかった。

「ううん、私の方でもさっぱり。もしかして、秘書か側近か何かと勘違いされたのかも。それくらいしか見当がつかなくて……」
「やはりそうですか。はて、どうしたものか……」

どうしたものか、と言いつつも、俺の中にはコント・ド・フェに行かないという選択肢は存在してなかった。俺が行かなければ意味が無いのだし、彼女が行かなければ意味が無いのだ。それは過去の俺が知っていることだし、未来の俺が痛いほど知っていることだ。

「頭領は、歓迎会行かれるんですよね?」
「まあ、せっかくだからね。管理人してるあの人の姿も見て見たいけれど、ほら、さっきコント・ド・フェに行きたいって言ったから丁度いいかなって思って」
「そう言われるなら、俺はついていきますよ。夜にどんな輩がいるかわからないですし、ほら、護衛だと思って」
「せっかく招待されてるんだから、アンタも正装して行きなさいよね。私もせっかくだから、ドレス出してこなきゃ」

頭領は先程行きたいと言っていたのもあり、棚から牡丹餅と言ったように喜んでいる様だった。俺はそれについていくだけのことだが、遊園地に行くのはある意味久しぶりではある。乗り物酔いはしない質だし、頭領が行きたいところについて行けばいいだけのことなのだが、やはりどこか胸がざわついて仕方がない。

「……そうですね、正装するなんて、何時以来でしょうか」


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