「ちょっと楽しかったですか?」
「そんなことあるわけないでしょ、バーカ」

俺からしてみれば一年分の馬鹿を言い終えたような気分だったが、彼女からしたらこれは所詮三日分程の馬鹿なのだろう。彼女は照れ臭そうに、そっぽを向いた。

「……こほん、私はちょっと身だしなみを整えてくるから、アンタはこの部屋で待ってなさい。すぐに終わるから」
「ええ、わかりました。それでは、ここで待たせていただきます」

頭領が俺の部屋を出るためにドアノブに手を伸ばしたとき、彼女がドアノブを触る前に、俺の部屋のドアが開いた。頭領はびっくりしていたようだったが、正面の相手を見て、その表情も元に戻ったようだった。

「頭領、ここにいたんですね。丁度よかった、雫にも用があったので、これで僕の仕事は同時に果たされるわけだ」

そこに居たのは、俺の腐れ縁である、島崎戒人であった。
金髪に俺と同じ赤い瞳。だが彼は、その赤を一切隠そうとはしていなかった。物腰の柔らかい彼は、微笑みながら俺と頭領に、封筒を手渡した。頭領だけではなく、俺にも。

「先程、組織のポストに入っていました。二通あったので、誰かと思ったら雫だったもので、先に彼に渡そうと思ってたんです。そしたら頭領もここにいたみたいで。僕は運がいい。――ああ、中身は覗いていませんのでご安心を」

頭領と同じ柄の封筒から見るに、どうやら差出人は同じところであるらしかった。そして俺が二度見したのはその肝心の差出人―――というよりもこの場合は差し出し場所というべきか。黒い封筒に、目立つ白い観覧車の封蝋が、嫌に怪しく光っていた。

「コント・ド・フェ……」

彼女がそう、ぽつりと呟いた。


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