「ところで、何か具体的に食べたいものはある?料理名じゃなくても、例えば和食とかそういう……」
「頭領の作るものなら何でも、と言いたいところなんですが……、こういう場合は指定があった方が助かりますよね。それじゃ、かぼちゃのキッシュでも作っていただきましょうか」
「また随分洒落たものをご注文ね」
「買い物なら俺が行きますから、頭領はここで休んでいてください」
「もー!そんな意地悪言わないでよ!作るのは私なんだから私もついていくの!ってか私がメインなの!」

置いてけぼりにされるのが嫌な頭領も可愛い。

「はいはい、分かりましたよ。じゃあお金を出すのが俺で―――」
「お金を出すのも私!いい?今日アンタは誕生日なの、主役なの、いいから私に黙って世話焼かれてたらいいの!」
「何だか彼女みたいなことを言うんですね、頭領」
「なっ―――」

俺たちはまだそういう仲にはなっていない。俺は慣れているが、頭領からしてみればからかわれているのも同然だ。彼女の顔はみるみるうちに真っ赤になり、口をぱくぱくさせている。

「ばっ……、バーカ!海音寺くんのバーカ!バ―――カ!!デリカシーのない海音寺くんバ――カ!!」

そう言いながら頭領は俺の胸元をぽかぽかと殴っていた。可愛い。林檎の様に顔が真っ赤になっている。可愛い。恥ずかしいのとちょっと嬉しいのか口角が若干緩んでいる。可愛い。

「何笑ってんのよ!私と出会ったときは能面みたいにちっとも笑ってくれなかったくせに!」
「……頭領が、あまりにも可愛いので」
「バ―――――カ!!!!!」

今すぐ撫でたくなるほど可愛かったが、これも試練だと思って俺は堪えることにした。欲求不満の時だったら確実に終わっていた(何が終わるのかは敢えて濁しておこう)。頭領は相変わらず、俺の体にこそばゆいダメージを与えている。

「でも頭領、いいんですか?早く買いに行かないと夕食時に間に合わないですよ?」
「……」

不機嫌そうにわざとらしく頬を膨らます彼女は、俺を殴ることをやめてベッドから重い腰を上げた。


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