そして徐に、自分の部屋を見渡してみる。俺の部屋は、時計の山以外特徴的なものは置いていなかった。時計の山は人目につかないところに置いてあるから、傍から見たらただの殺風景な部屋、シンプルな部屋と言ったところであろう。俺もそれは自覚していたし、これ以上何かをしようと言う気にはならなかった。それに比べて彼女の部屋は、シンデレラが好きな影響なのか、ガラス細工のものがよく置かれていた。一段と目を引いたのはガラスのかぼちゃの馬車。そんなものが売っているのかと最初は思ったものだが、今思えば彼女にぴったりで可愛らしい置物だ。彼女にそう告げたら、彼女は喜ぶだろうか。

「俺も彼女みたいに、部屋を飾れるくらい余裕があればな」

ソファに座り、やっと一息つけたところで、彼女の寝ているベッドから物音が聞こえた。スプリング音だ。思っていたよりも早めに、彼女が目を覚ましたらしい。俺はゆっくりと、ベッドの方へと向かった。


「ねえ、私ずっと寝てた?」

どうやら薬を投与されてからのことは覚えていないようで、こちらとしても都合が良かった。何と言葉を返そうか一瞬ためらったが、ドーナツを食べてから眠くなったようで、俺のベッドまで運んだんですよ、と答えることにした。

「ふーん……、せっかく奢ってもらったのに寝ちゃったなんて何だか悪いわね」
「いえ、お気になさらず。俺は大丈夫ですから」

あまり納得がいっていなさそうな顔だったが、彼女はしぶしぶ今の事情と結びつけることにしたようで、それ以上何も聞いてくることはなかった。

「アンタの誕生日なのに、アンタに迷惑かけたら意味が無いわよね……、ね、私に何か出来ることってない?」
「献身的な上司って、有り難いですけど申し訳ないですね」
「いいのよ!言ったでしょ、私がしたいからやってるの!所謂お節介なの!何でもするから!」
「ん?今何でもするって言いましたよね?」
「え」
「冗談ですよ。俺はその気持ちだけで十分ですから。……あ、強いて言えば、今日の晩は外食じゃなくて、頭領が何か作ってくれると嬉しいな、とは思いますけど」
「そうなの?ふふ、腕によりをかけて作っちゃうんだから!」

頼ってもらえるとわかって急に機嫌が良くなる頭領、可愛い。


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