「これで満足でしょ。さ、頭領をつれてさっさと帰りなさい。アタシはアンタの顔なんて見たくもないんだからっ」
「どうして俺はそこまで貴女に嫌われてしまったんでしょうかね」
「考えなくても分かるでしょ!生意気だからよ!」

その言葉をそのままそっくり返してもよかったのだが、別に俺は吉屋さんが俺を嫌っている程、吉屋さんのことを嫌っているわけではなかった。扱いやすさで言えば頭領と並ぶし、どちらかと言えば好きな分類の人間だ。吉屋さんはそんなこと微塵も思っていないだろうが。

「俺は、貴女の予想外なところが結構す―――」

そこまで言いかけて、ようやく今の状況に気付いた。そう、今は予想外の展開なのだ。俺の知らない物語が進んでいる。その事実に、俺はただ吉屋さんに感謝するしかなかった。

「いや、大好きです。そりゃもう愛してると言っても過言じゃないくらいには大好きです」

そして俺は、遠慮せずに吉屋さんの小さな体に思い切りハグをした。吉屋さんにハグするのは初めてだったが、ためらいはなかった。

「え、えっえええ、ちょ、な、なっ、何いつもの顔でさらっと変なこと言ってるのよ!離しなさいよ!と、頭領をたぶらかしといて、アタシをキープにする気!?い、意味わかんないんですけど―――!!?」

うろたえている吉屋さんは可愛かった。ずっと頭領を見ている俺からしてみれば、まさに小さい彼女のようだった。ロリの彼女はどちらかというと、もっと素直で健気な子なのだがそれはそれ、これはこれ。俺は結局頭領が一番で、一番可愛いと思っているわけだし。

「勝手に一人で惚気てんじゃないわよ!!そう思うなら離しなさいよ!!」

じたばたする吉屋さんに気が付き、俺は言われるままに束縛をやめた。吉屋さんは何が何やらわからず、疑問符を浮かべつつも異性に抱きしめられたことからの恥ずかしさの方が上のようで、顔を真っ赤にしながらこちらを睨みつけていた。もしかして、異性に抱きしめられるのはこれが初めてだったのだろうか。

「不思議そうな顔をしてこっちを見るんじゃないわよ!色々聞きたいことがあるのはこっちなんだからね!ああもう、どうして抱きしめられるのがコイツなのかしら……」

ブツブツ言いながら体をさする彼女は、誰が見ても機嫌が悪いと分かるほど嫌悪感丸出しだった。

「……いや、何となく抱きしめてみたくなったので」
「そんな納得出来ない理由でアタシがはいそーですか、って引き下がるわけがないでしょ!ちゃんと説明しなさいよ、説明しないと帰らせないわよ!」


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