豚もおだてりゃ木にのぼる。この場合は吉屋さんもおだてりゃ薬(語呂の良さでヤクと読みましょう)渡す、と言うべきかもしれない。吉屋さんは頭領が俺に汚されるのを嫌っている。そもそも自分のことが気に入らないのだから、大好きな頭領が嫌いな俺に触れられたら癪だろう。

「しょ、しょうがないわね、頭領のためよ、アンタの魔の手に頭領が犯されるくらいなら、アタシが頭領を救うわ!」

そう言いながら、吉屋さんは懐から小さな瓶を取り出した。ちょろい。しかしやはりお前か。

「な、何よその目は。アタシのせいじゃないわよ。ただたまたま解熱剤を持ってて、それがたまたま頭領のタイプと一緒だっただけよ」

そんな偶然があってたまるものか。

「とにかく!アタシが治すって言ってんだからとっとと頭領を治させなさい!」
「はいはい」

まあなんにせよ、これで俺は頭領の突拍子もない行動から解放されたわけだが、まだどこか体が熱い。俺は薬を盛られていないのは恐らく確かなのだが、きっと彼女に触れられたことや予想していなかった出来事が立て続けに起こったため、頭の整理がついていないのだろう。こんなことでは先が思いやられる。

「ああ、勿論頭領が治るのを見届けるまで、俺はここで貴女の行動を見張ってますからね」
「何よ、疑い深い男ね。ふん、そんなに見たけりゃ見ればいいじゃない。アタシの腕を舐めるんじゃないわ」
「それは知ってますよ。実際こうして頭領に効果が表れているわけですし」

その言葉に吉屋さんは返事をせず、先程取り出した小瓶の中に入った透明の液体を頭領の口に注ぐ。死んでいるわけではないので彼女はそれを、無意識ながらゆっくりと飲んでいく。全部飲みきれず口元から零れた液体が、地面に何滴か落ちた。


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