二つ目は、自分と一日付き添う権利だった。もっとかみ砕いて言えば、自分を好きにしていい権利。いかにも彼女らしい贈り物というか、頭領らしい考え方だった。たぶんこの申し出を断れば、彼女は悲しむだろう。もっと言えば、悄気るだろう。断ることはたやすいが、心の奥底で結局頭領に嫌われたくないと思ってしまう俺は、その申し出を受け入れることにした。
そして三つ目。

「アンタ、よく懐中時計を見てるでしょ? だから時計好きなのかなって思って、せっかくだから新しいのを買ってきたのよ。値は張ったから、良かったら使ってほしいわ」

そう言って彼女は、上品なラッピングがされた箱をゆっくり取り出した。懐中時計の有名ブランドのもので、彼女に許可を取ってその包みを取ってみると、自分が今持っているのと似た銀色のデザインのこれまた同じスケルトン仕様だった。

「……よく見ていましたね、今持っているのとデザインが似ている」
「懐中時計を今時持っている若者なんて、そりゃ目につくわよ。最近はお年寄りでもあまり懐中時計なんか使わないもの。最初アンタが懐中時計で時間を確認してるのを見た時、てっきり英国紳士かと思ったわ」
「そりゃどうも。でもね頭領、ありがたいプレゼントなんですが、これは今の時計が壊れてから使っても大丈夫でしょうか。俺、この懐中時計には思い入れがあるので、止まった時に使いたいと思うんです」
「へえ、そうなの? 誰かから貰ったもの?」
「ええ。とても大切な人から」
「……」

彼女は俺のその言葉を聞いて、黙ってしまった。少し意地悪を言ってしまっただろうか。
 複雑そうな顔をしたが、彼女はそれを打ち消そうと何かを呟いて、首を横に振った。そしてこちらを見て、大きく息を吸い込んだ後、再び言葉を紡ぎ出した。

「―――じゃあ、その次でいいわ。その人のこと、大事にしてあげるのよ」
「ええ、勿論。この懐中時計、大切に使わせていただきますね」

俺は少しだけ口角を上げて、彼女の頭を撫でた。彼女は一瞬呆気にとられたが、すぐ何をされたかに気付いて、顔を赤くした。

「な、撫でないでよ! 何回も言ってるでしょ、私年上のおねーさんだってば!」
「失礼。つい撫でたくなってしまって」

彼女は頬を膨らまし態度はむすっとしつつも、本当に嫌がっているようではなかった。俺は、それに釣られてまた何故か口角を上げずにはいられなかった。



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