「……誰から聞いたんですか」
「誰からも聞いてないわ。ただ、部下の資料、個人情報はある程度把握してる。特にアンタ―――海音寺雫の情報は」
「……ストーカーですか」
「……違うわよ。ほんと鈍感なんだから」
「……鈍感、ですか」

貴女に言われたくない、と言いかけたのを悟られないようにこっそり飲み込む。彼女にはそう見えるだろうし、自分もそう見られていなければ困るのだ。だが、たまに彼女の些細な一言が―――それは彼女が俺を傷つけようと思って言っているものではないのは重々承知しているが―――俺の消したはずの心を掻き立て、奮い立たせ、人間に戻れと囁いてくる。これは苛立ちなのか、それとも嫉妬なのか。はたまた―――

「どうしたの? 考え込んだ顔して。私変なこと言った?」
「……いえ。身内のことですのでお気になさらず」
「そう。それなら話を戻します。……今日は十一月十八日。これが何の日か、という問いだったはずだけれど、そろそろ答えを言ってもらえないかしら?」
「……俺の誕生日です」

そう、十一月十八日は俺、海音寺雫が生を預かった日だ。人に誕生日を言いふらすような性分ではないので、まさかこうして堂々と言うような日が来るとは思っていなかった。しかも当日に。
彼女は俺のその態度に納得したようで、大きく頷く。そして組んでいた腕を元に戻し、今度は手を腰に当てた。

「ええ、そうよ。アンタの誕生日。だから、今年は私からプレゼントを送ろうと思って!」
「プレゼント、ですか。それは喜ばしい限りですが、俺は頭領から何を頂けると言うのでしょう」
「そうね、いい質問だわ。寛大な私は、アンタに三つのプレゼントをしたいと思うの」
「三つ、ですか。三つも用意してくれたのは、何が目的です?」
「好意よ、好意! それに形に残るものは一つしかないわ、だから厳密には一つかもしれないけれど、まあ細かいところはいいのよ」

彼女が俺のために用意したものは三つ。

一つは手料理。前に述べた通り、俺は彼女の料理を気に入っている。これは願ってもないプレゼントだったし、彼女の作る料理なら何でも美味しいと思えた。俺が顔に出ていたのか、彼女は俺が彼女の料理が好きだとなんとなく把握していたようだ。食べる時、そんなに幸せそうな顔をしていただろうか。覚えが無い。
正直外食よりも、彼女の手料理の方が何倍も嬉しかった。外食でも彼女と食べられるのならそれはそれで構わないし、退屈なわけではない。しかし、あの温もりを味わっている時、大袈裟かもしれないが、俺は生きている心地がしたのだ。
自分の体には温かい血液が流れていて、心臓の鼓動は未だ響いている。それなのに俺は、たまに生きていることを忘れてしまう。それはまるで、任務を与えられて、その任務のために生きそれ以外を考えようとしないロボットの様に。そんなロボットでも、彼女の手料理を食べている時、俺はそんな虚無感を忘れられる。油断してしまえばうっかり涙を流してしまいそうになるほどに。


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