見たことがある。と言っても友達という親しい間柄ではないのだが、何度か顔を突き合わせた覚えがある。向こうは自分の存在に気が付いていないようだが、こちらにも声をかける余裕は無いし、そもそも声をかけても話題が無い。
俺は隠そうともしない、左右の瞳の色が違う彼を羨ましく思った。

「自分なんて、彼ほど珍しい色でも無いのに」

呟きながら、そっと自分の目のあたりを手で軽く押さえる。
この灰色の瞳は偽りである。妹は隠していないが、本来は赤色の瞳を自分は持ち合わせていた。ただ自分はこの赤色があまり好きではない。闇夜で目立つし、赤は他の人に印象を与えやすい。それも、どちらかと言うと物騒な印象を。―――それに加えて、日本人とは思えないこの白髪だ、アルビノの家系だと言われても可笑しくは無いだろう。

「……嗚呼、考え事をしている暇は無かったな」

レモンが入った袋を抱えながらどこかに向かう彼は、最終的に俺に気が付く事もなく、俺の視界から消えた。


「豪く遅かったじゃない」

腕組みをしながら、彼女はそこに立っていた。ただ口調の割には怒っている様子は無く、いつもとその表情は変わらなかった。
彼女の言葉に急かされる形で、懐中時計を確認してみると、十一時十三分を指している。丁度計算通り、二分前には彼女の部屋に到着することが出来た。はずなのだが、彼女はこれを遅いと言った。

「俺は時間前に着きましたが、もっと早く入ってくると思いましたか?」
「ええ、アンタは五分前行動が常だから。途中来ないのかと思ってひやひやしたじゃない。全く、変な心配かけさせないでよね」
「それは頭領の早とちりなのでは」
「そんなことないわ! 元はと言えば、アンタがいつも五分前行動をしているのが悪いのよ!」

まさか五分前行動にケチを付けられるとは。良かれと思ってしているのに、と言うか誰にも迷惑をかけないように、念のためにとするはずのものが、こんな理不尽な理由であっさり切り捨てられるとは。頭領の言い訳も相変わらず健在のようだ。

「こほん。では本題に入ります。アンタ、今日が何の日か、さすがに自分で分かるわよね?」
「今日ですか、ええと、確か十一月十八日。火曜日ですね。今日は確か祝日では無かったはずですが」
「……とぼけないで。覚えていないわけがないわ。ほら、私から言わせないでよ。改めて問います、今日は何の日?」
「……」

答えたくない、というわけではなかった。
ただ、自分から言うのはおこがましいと思っていたし、自分がこの日が何の日であるか、彼女に伝えた覚えが無かったのだ。これを知っているのは妹か、はたまた腐れ縁の戒人か―――


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