『海音寺くん?』
「! ええ、俺です。今どこにいるんですか? 皆も心配してますよ? 無事でよかったです、早くこちらに帰ってきてください」
『悪いけど、私にはやることがあるの。内容は言えないけれど、近いうちに――遊園地に行くまでには帰ってくるはずだから、』
「それより貴女は今とこにいるんですか? それだけでも答えてもらえれば―――」
『それは言えないわ。アンタに心配をかけさせたくないのよ』
「ここで言わない方が心配をかけるに決まってます。お願いです、どうかせめて場所だけでも教えてください……!」

珍しく感情が表に出ているとでも思われたのか、縁さんと来夢さんは俺の方をずっと何も言わず見ている。嗚呼、こいつはこんな顔が出来たのか、なんて思われているのかもしれないが、俺にはそれを気にしている暇はない。
 次の第一声を今か今かと待ち続けて次に聞こえた言葉は、俺の耳を疑うものだった。その理由は三つ。一つは、灰音さんの声じゃなかったこと。もう一つは、それが女性の声ではなく男性の声であったこと。

『教えてほしければ教えてやろう、小僧』

聞き覚えのある声。
聞き覚えしかない声。
聞きすぎて何も響かない声。
聞きすぎて自分だと錯覚してしまう声。

『心配するな、汝の慕う彼女は斉弧にいる。そして汝の顔の前に、我の前に、しっかりと存在しているからな』

最後の一つは、その声が天狐だったことだ。


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