相変わらず一方通行のように見える二人のやりとりも、今では羨ましく見えた。俺は悲しい感情をそっと心の底に仕舞い、縁さんへとまた話を振った。

「で、縁さん。心当たりがあるところ、教えてください。俺は貴方の言う場所すべてを回るつもりでいます」
「おおう、過保護だねえ。来夢ちゃんもたぶん言ってると思うけど、本当に心配なら電話をかければいいんじゃないかな?」
「……じゃあ今かけます」
「本当に両親みたいだね。いいよ、かけてみて。僕も気になってるのは事実だし」

俺は焦った手つきでスマホを操作し、急いで灰音さんへと電話をかけた。ずっと鳴る呼び出し音に、俺はハラハラせざるを得なかった。単調な音がずっと流れている。そしてそれが鳴りやむことはない。

「……」
「出ないね」
『ただいま、電話に出ることが出来ません。ピー、と鳴りましたらメッセージを……』

機械の音声に、俺は唇をきつく噛む。縁さんも来夢さんもそれを聞いて、ただ表情を変えず固唾を飲んでいる。俺は多少の苛立ちを覚えながらも、電話を切った。

「――思ったより事態は深刻みたいだね。そうだ、僕も協力しよう。今日は仕事を早めに終わらせてきたから、コント・ド・フェに戻る必要は無い。何ならここに泊まってでも探すよ」
「ありがとうございます、縁さん。では各々、灰音さんが行きそうな場所を当たりましょう。何かあったら連絡してください。――来夢さんは、灰音さんに任されてるって言ってましたし、ここに残ってください。そして組織員をまとめてください」
「……ハードル高いことを求めないで。まあ、やれるだけやってみるけれど」
「ええ、感謝します。縁さん、じゃあ行きましょうか―――、」

俺がドアを開けて外に出ようとした瞬間、鳴ると思っていなかったスマホから、突然着信の知らせが来た。思わず肩を震わせた俺は、咄嗟に出ることをためらった。それでも音は止まない。まるで先程俺が電話をずっとかけ続けていたみたいに、ずっとこちら側に干渉してくる。そして画面には、【幸田灰音】の文字があった。

「……!」

折り返ししてきたのだ。俺は喜びから電話を取った瞬間、頭が真っ白になり思いついた彼女の名前を呼んだ。しばらくして向こうから声が聞こえた。


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