すごい鋭い質問が返ってきた。俺もまともな人だと見られていないことが分かってしまった。こんなところでこんな事実が分かっても何も嬉しくない。ショックを受けるだけだ。

「……」
「もしかして雫、自分のことまともだと思ってた?だから黙ってるの?……普通に考えて、自分の上司にセクハラしてる部下がまともなわけないでしょ」

ぐうの音も出ない。

「縁から聞いたけど、灰音の胸を触ったんだって?付き合ってもないのに、公然とそういうことをやってる男が、傍から見てまともに見えるわけないでしょ」

縁さん、なんてことを来夢さんに言ってしまったんだ。メールを送ってしまったからそれだけの要件でメールを送るのも面倒だが、後日コント・ド・フェに遊びに行って縁さんに会ったら、絶対その綺麗な顔面をぶっ飛ばしてやろうと思う。

「……まあ、雫って何考えてるかいまいちわかんないから、真面目そうな顔してて案外すけべなんだなって」
「いや、そういうことは縁さんに言った方がきっと興奮すると思いますよ。縁さんが」
「絶対しないから。また調子乗るし」

そう言って来夢さんは機嫌を損ねてしまったのか、そっぽを向いてしまった。こういうところは灰音さんに似ているが、マイペースなところは、やはり犬というよりは猫っぽい。

「冗談ですよ。まあその話は置いといて、質問の続きですよ。どうして来夢さんが伝言役と仕事に関して任されたのか」
「雫、たぶん自分で気付いてないんだろうけど、たぶんそれは嫉妬だよ。自分がのけ者にされたからちょっとムキになってるの」
「……」

否定はしない。実際その気持ちも少なからず自分の中にあるだろうことは、何しろ自分が一番分かっていたから。その意味も込めて、俺は来夢さんに問うたのだ。何故俺じゃなく、来夢さんに頼んだのか。心に刺さった棘のようなものを、俺は何度も棘じゃないと言い張ろうとしている。それでも、灰音さんに頼られていない事を痛感しただけで、俺は心にぽっかりと穴が開いてしまったような虚無感を覚えてしまうのだ。

「どうしたの、雫。顔真っ青だけど。何か私、変なこと言った?」
「……すみません、大丈夫です。俺が深く考えすぎただけで。しばらくしたら治ってると思うので気にしないでください」
「……そう」

来夢さんはそれ以上肯定も否定もせず、しばらく沈黙の時間が続いた。それでも来夢さんはこの部屋から出ていこうとしないので、何か用事があるからこの部屋に来たのだろうかと思っていると、再び彼女は口を開いた。

「理由、だけど。私もちゃんとしたことは聞いてないけど、予想することは出来る。ここからは私の独り言だから、真に受けたりしないでよ」
「……独り言、ですか」


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