茅ヶ崎さんには、どうやら獣の血が混じっているらしかった。
「で、今日は何の話をしますか、茅ヶ崎さん」
「えっと、じゃあ昨日のテレビの話でもしよっか」
鉄格子越しの彼女は、自分が不自由な環境にいるにも関わらず屈託のない笑顔で俺と何気ない会話を成立させようとしていた。
実際のところ彼女は手首にも足首にも枷はつけられているので、身動きもろくに出来ないかもしれない。それでも何も重荷などないように、純粋さをこちらに振りまいている。それはまるでご主人を目の当たりにした一匹の犬のように。
ただ先程彼女が言ったように、鉄格子の中とはいえ小さいながらもテレビはあるし個室のトイレだって存在している。拘束している割には、優遇されていると言っても良い環境だろう。
彼女の自由を奪っているのは、とある女科学者なのだが、ちゃんと本人の了承を得て安全と彼女自身の保護を兼ねてこの牢屋に入れているらしい。
ただやはりすぐ見て分かることといえば―――彼女の頭からは獣の耳のようなものが生えているということ、そして臀部から同じく尻尾も生えているということだろうか。
それ以外は見た目も普通、金髪に茶色の瞳のどこにでもいそうな女の子だ。
「……」
俺はしばらく彼女のその出で立ちを眺めていた。やはり見れば見るほど不思議なものだと実感させられる。その行為自体に別に意味はない。
「どうしたの?」
彼女は不思議そうに首を傾げる。その仕草もやはり幼くて、到底自分を襲えるような力を持っている女の子だとは思えない。昼の姿と夜の姿だと、豹変と言った言葉がしっくりくるほどの変貌ぶりなのである。実体験した自分にはそれが痛いほどわかる。
自分の考えを悟られたくなくて、何てことはないというように普段通りに返事をした。
「いえ、何も」
「ふうん、変な高橋さん」
彼女はぺたんと座っている姿勢のまま詰まらなさそうに視線を床に戻し、自分の耳を恐る恐る触り始めた。