彼女から渡された小包には、手作りとは思えないほど綺麗に象られたチョコレートクッキーがたくさん入っていた。
動物の形をしたものからハートや星、それこそ二色三色混じったものまで。
一瞬市販のものかと思ったのだが、彼女曰く手作りらしい。そもそも材料は里居さんが買ってきていたらしく、彼女はほぼ外出していないのだとか。

「ちゃんと味見もしたからきっとおいしいはず! 一口食べてみて!」

嬉しそうに頭から生えている獣の耳のようなものと尻尾を揺らす彼女を正面に見据えながら、俺は徐に一口そのクッキーをほおばった。

「……!」

美味しい。
本当にこれは市販のものではないのか。甘すぎない絶妙な砂糖加減とアクセントのスライスアーモンド、硬すぎない焼き具合、どれもことごとく俺の好みを突いてきていた。
彼女に呼び出された時は何かと思ったが、俺は茅ヶ崎さんの顔をまじまじと見つめながら、素朴な疑問をぶつけた。

「あの、これどうやって作ったんですか?」

茅ヶ崎さんはその質問に不思議そうな顔をしたが、「変わったことはしてないよー、普通のクッキーの材料しか使ってないし、もしかしたら分量がドンピシャだったのかも!」と本人にもこの美味しさの秘訣は良く分かっていないようだった。
このクッキーが自分好みだと言うことを告げると、彼女はとても嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねて素直に喜んでいた。そういえば里居さんと前に雑談をしていた時、茅ヶ崎さんは料理が上手でよく自分の分も作ってもらうのだという話題も出ていたっけ。

「で、今日は何でまた?」
「え? もー高橋さん、今日はバレンタインだよ! 好きな人にチョコレートをあげる日なんだよ!」

ああ、そう言えばそうだった。今日は二月の十四日。世間の女性が好きな男性にチョコレートの贈り物をするいわゆる”バレンタインデー”だった。
去年は確かクラスの女子が配っていたような気がするが、今年は日曜日だから高校もなくすっかり忘れていた。というか自分にはあまり縁のないイベントだったもので意識すらしていなかった。


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