皮肉を言い合う俺達を見て、それぞれの担当さんがくすくす笑っていた。それを仲睦まじいと思ってのことか、それとも凸凹夫婦だなと思われたのかは知らないが、杏璃はそれを見て少し恥ずかしかったのか俺との会話に大声で終止符を打った。

「とにかく! せっかくだから写真撮ってもらうのよ! あんたが結婚出来るかどうかも分からない訳だし、いい記念にはなるんじゃないの?」
「そっちこそ。後で泣きついてきても知らねえからな?」

俺の場合は完全に強がりだったが、珍しく耳を真っ赤にしてまでこっちの言葉に噛みついて来た彼女を見れただけでも収穫にはなっただろう。後から彼女と喧嘩した時に弱みを握ったことになるだろうか(たぶんならない)。
綺麗に絵の様に微笑んだ彼女と、どうポーズを取っていいかわからなくて癖でそっぽを向いてしまった俺が映った写真は、彼女と俺の中での一つの秘密となった。
でも、彼女の花嫁姿は本当に綺麗だった。彼女と結婚できる男が羨ましく思う反面、自分が彼女の隣で、その姿を再び見ることは出来ないだろうかと自分勝手に考えてしまう。
帰る時には既に雨はあがっていた。誰も傘を差していない。人通りが帰宅ラッシュで多くなってきた夕方の交差点で、俺は彼女に一つ問いかけた。

「なあ、本当に俺と来てよかったのか? お前、年頃の女なんだからその、……好きな男とかいねえの」
「……さあね。私も良く分かんないのよ。恋愛に興味がない訳じゃないんだけど、でも私は今が幸せだから、こうしてあんたの世話焼いてる方が生き甲斐感じるのよ」
「……物好きだな」
「分かってる癖に、昔からあたしがそういう女だってこと」

そう、彼女の言う通り、俺は昔から疾うに彼女がお節介だと言うことは理解している。今でも作業場に彼女自身が作った手料理が運ばれてこない日は無いし、たまに土日には彼女の買い物に付き合うという名目ではあるが結局俺の身辺のものを買う方を優先したりと、俺が昔からぐうたらなことを見越して彼女は俺のために動いてくれている。幼馴染だからついで、というのが彼女の口癖だが、俺は近くにありすぎて前まで気が付かなかった、感謝すべき彼女の思いやりを思い出した。


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