「でも貴方は、彼女のことを大切に思っていらっしゃるのですね。細かいところまで気が利いて、きっと貴方はいいお婿さんになりますよ」

――まあ、こんなことを自分のことのように笑顔で話されてしまっては、こっちもとても恥ずかしくなるし罪悪感すら覚える。俺は彼の顔を直視することが出来なかった。

「ああ、そんな恥ずかしそうになさらずに。思ったことを言っただけですから。さて、花嫁さんがお待ちですのでそろそろ行きましょうか」

そう言うと男性はゆっくりとドアノブを回した。花嫁の着替える部屋は俺がいた場所の隣であり、終始俺が慣れない着付けに戸惑う声が向こうに聞こえていたのと同時に、こちらにも彼女が慣れないドレスに困惑しているであろう声が漏れてきていた。お互い様。
俺はそう言えばそうだった、と今更現実に戻されたように、眠りから覚めたように心の準備がきちんと出来ていないまま白のドレスを纏っている彼女の姿を見ることになるのだった。

「わ、待って、まだ心の準備が……!」

俺と同じこと言ってた。
彼女は普段髪にリボンを付けているが、今回はベールを被るため敢えて外しているらしい。普段ナチュラルメイクの彼女が、今回は衣装にあった化粧をしており、いつもより大人っぽさが強調されていた。最近流行りの短いスカートタイプのものではなく、形式に則った裾を持ってもらうタイプのものだった。露出こそ少ないものの、その方が化粧と合っていたし、俺としては普段会って見ている姿と違う方が、ギャップ萌えというやつか不意に心を奪われてしまうものであった。

「……ま、まあ馬子にも衣装、だな」
「……あんたも、頑張って取り繕ったにしては、似合ってるんじゃない? きっと着付けしてくれた方が相当苦労してくれたのよ」


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