「チョコレートがついたら大変だからね。まあ寝間着だから普段着ている洒落た衣装よりはついても許されるとは思うけれど、見つかって少年にどやされるとなかなか後に面倒くさくなるだろう?」
「……」

深夜は普段自分が身に着けないエプロンを見て、まるでおめかしをしている少女のようにくるりとまわり、後ろのリボンを確認しては僅かながら嬉しそうに笑った。

「お気に召したなら光栄だよ、深夜。さて、比較的簡単なものと言っても時間はそれなりにかかる。早いとこ終わらせてしまおうか」

新は気合を入れているようで勢いよく腕まくりをした。深夜はそんな彼女を見て、親の真似をする子供のように同じように彼女よりは遠慮がちに袖を持ち上げた。
そして髪の毛にも材料がついてしまうと困るので、予め新が用意していた簡素なヘアピンを自分につけ、深夜の前髪にもつけてあげた。
普段見慣れていると言っても元々は白夜の領域に踏み入っているようなものだ、元ある場所を忘れないように、そして傷つけないようにそっと調理器具を取り扱う。

「本来ならば調理器具も買ってきたほうがやりやすかったんだろうけどね、なんせあれだけぜ絶品の料理を作る彼の厨房だ、せっかくだから気持ちだけでも少し彼の気分を味あわせてもらおうと思ってね」
「ふうん?」
「―――というのは建前で、実際は費用を削減するためなんだけれどね。元々ここにあるのに新しいのを買っても場所を取るだけだ。それに普段料理しない私たちが調理器具を選んだところでどうせ目利きできないさ。それなら道具くらいなら料理人の少年に一任させてもらったほうがお得というわけだ」
「えっと、つまり材料以外にお金をかけたくないから買ってこなかった……?」
「ま、端的に言えばそういうことになるね。心配しなくても調理器具の違いくらいでは大して味は変わらないよ。こだわる人は知らないけれど私たちにそれはまだハードルが高すぎるかな」

新はそう言いながら、材料をボウルに入れ軽快に卵を割っていく。深夜はそれを見てあわてて用意してあった牛乳をそこに注いだ。


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