友人がそわそわしていたような気はするが、自分は異性にもらえるのは母親くらいのものだから義理以外はないものだと。
……まてよ、これはもしかしたら本命なのか。だとしたら彼女にはホワイトデーにどんなお返しをしたら喜ばれるのだろうか。かと言って直接聞くのは野暮な気もする。初めてぶち当たったイベントの壁に、俺はしばらく誰にも相談できず悩むことを強いられたのであった。
たぶん、結局は里居さんにでも相談することにはなりそうだが。

「高橋さん、どうしたの?」
「あ、いえ、こっちの話です。何でもありません」

彼女の思いを傷つけないように、かつ自分の思いに嘘を吐かない方法はないのだろうか。

―――待てよ、そもそも自分の思いって何だ?
―――俺は彼女のことが嫌いなのか? いいや、そういうわけではない。
―――恋人でもないし、一体彼女のことをどういう目で見ていたのだろうか。

彼女と初めて出会った日。
彼女と初めてデートした日。
彼女から初めてキスされた時。
彼女にチョコレートをもらった日。

様々な彼女との出来事を思い出し―――いや、これはもう完璧な恋人なのでは……!?
むしろ恋人じゃない方が傍から見たらおかしい図案に見える。俺が自分たちのことを客観的に分析するとしたら、二人の間柄は間違いなく親密な男女の関係以外の何物でもない。

―――俺は、茅ヶ崎さんのことが好きなのだろうか?

悩んだ末彼女を見ると、屈託のない笑顔で、それはまるで恋人と言うよりは娘のような顔をしてこちらを見ていた。俺はゆっくりと彼女の頭を撫で、彼女はなすがままに頭を差し出す。

この問いの答えが見つかるころには、俺と彼女はただの被害者と加害者の関係ではなく、何か別の糸が互いに結びついているのかもしれない。それが友人なのか、親友なのか、腐れ縁なのか、恋人なのか、はたまたそれ以外なのか。答えを出すのは、まだ先で良い。


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