時間は午前二時三十分。案外話し込んでしまったと明日葉は思う。
明日葉と彼はそれぞれの自宅へと向かうために、元来た道を引き返し始めた。ただ自宅とは言っても、彼女らが幼馴染であるように家もまた互いに近所なので同じ方向ではあった。
道の明るさは先程と変わらなかったが、確実に人通りは少なくなっていた。

「ところでさ、悟は彼女とかいないの」
「突然だな」
「だって今思ったんだもん、いいじゃない。で、いるの? いないの?」
「いねえよ、仮にいたらとっくにお前にばれてるだろ」
「言われてみれば確かに、学校も同じだし家も近いんだから何となく気付くよね」
「そういうお前こそ、早くいい男見つけろよ」
「彼氏いない前提で話進めるのやめてよねー」
「いないだろ?」
「いないけど」

明日葉は横断歩道の前で歩みを止めた。赤信号だった。
同じように彼も明日葉の手を握ったまま大人しく赤色が青色になるのを待っている。

「まだみんな起きてるんだね」
「俺らも起きてるだろ」
「そうだけどさ、やっぱりあたし達より年上の人が多いじゃない? 残業か何かで終電で帰る人とか、ほら、ああいう男女二人とかはきっと、・・・・・・」
「何で黙るんだよ」
「・・・・・・変なこと言わせようとしたでしょ」
「お前が一人で勝手に何か言おうとしただけだろ」

歩行者用の信号が鮮やかな青色になった。
それを見計らってか、明日葉は彼の握っていた手を離し、照れ隠しにそそくさと歩き始める。
彼はそれに反応するのが一瞬遅れた。

「あ、・・・・・・ったく、何やってんだアイツは」

その瞬間だった。

―――明日葉が渡っている横断歩道に車が突っ込んできたのは。

「・・・・・・ッ!」

獣のような、声にならない叫びが都内にこだました。


強烈な何かの破裂音がした。
長いクラクション音がスクランブル交差点に響き渡る。
群がる野次馬。
ざわめく深夜の街並み。
流れる血液。
どれもがこの時間が非日常であることを物語っていた。

「・・・・・・さと、る・・・・・・?」


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