「最近クラスがおかしい? 元からでしょう、受験生なんですから」

僕は弁当の白米を口に頬張りながら、そんな彼女の素朴な質問に答えます。
彼女はクラス委員でしたから、僕にとってはどうでもいい有象無象のことも気にしているようです。

「おかしいというのはそういう意味じゃない、ぴりぴりというより不気味なんだ」
「不気味?」
「何かを怖がっているような、信仰しているような、・・・・・・言葉に出しづらいんだが皆どこかで男女関わらず繋がっているような不気味さだ」
「いいことじゃないんですか? それこそ追われている環境なのは全員同じですよ」
「ふむ、まあ私の気のせいならそれでいいんだが」

彼女は僕と意見が合わないことで気のせいだと言いましたが、瑞姫の勘は時折、観察眼が良いせいか思わぬ形で当たったりするので油断なりません。
この前独り言のように『あの子、私の席の左斜め前の男子が好きみたいだ』なんて授業中に隣の席に座っている僕に向かって脈絡も無く呟き、見事に的中させていました。
なぜ当たっていたと分かったかというと、あくる日に僕が学校の図書室に足を運ぶとドアの前に神妙な雰囲気の二人が立っていたからです。
もっと詳しく言えば、その後クラスで僕と同じように二人を見た輩が、二人は両思いだったことということを囃し立てていたからでした。
全く馬鹿馬鹿しいです。

話は少し変わりますが、僕と瑞姫が付き合い始めたのは中学二年の二学期のことでしたから、一年ほど経ったことになります。
決して惚気ているわけではありませんよ。
ちょうど僕達が付き合い始めたときは、彼女達と同じように冷やかされたものでした。
勘違いされているかもしれませんが、別に僕はこの時クラスメイトに嫌われているわけではありませんから普通に男女共々話しかけられていました。
僕からはあまり話そうとしないのですが、それでも彼らは僕に話しかけます。まだこの時は、僕は今ほど他人を軽蔑していなかったのでしょう、簡単に受け入れました。
だから瑞姫と二人で弁当を食べる以前は、僕は普通に男子の渦に入っていましたし、彼女は普通に女子の渦の中にいました。




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