帝光中は生徒の人数がとても多い学校である。そのため来年度のクラスは三学期の終業式後、それぞれ自分の教室で先生が口頭で発表してくれるらしい。ボクも二年生になって自分は何組になるのかを聞いて忘れないよう一応メモ帳に書いておく。忘れることはないだろうが、念には念をである。始業式の日に恥をかいては堪らない。来年度使うこととなる下駄箱の位置を確認し解散となった。これで一年生も終わりかと思うと長かったような、短かったような……なんというか、あっという間に過ぎていったような気がする。と言っても四月に入るまでは正式に二年生とは言えないのだが。



「ごめんね黒子くん……!」



なんてことを正門の前で一人思っていると約束をしていた人物が駆け足で向かってきた。みょうじさんである。約束……というのは、単純に二人で帰ろうという約束であった。保健室での一件のあと驚くほど仲良くなれたボクとみょうじさんはメールアドレスを交換し、家も結構近かったということもあり下校時間を共にしていた。部活もあり帰るのが遅くなるときも多いが練習が終わったあとは勉強しているという教室へ迎えに行きしっかりと家まで送り届けている。みょうじさんと話す時間はとても楽しく話も弾み、大切な時間の一つとなっていた。基本聞く専門だというのについ言葉の続きが出てしまうのだ。話が弾む原因は間違いなくこれだろう。朝の登校時間だが、朝練が早すぎるためさすがにボクが断った。放課後だけでも一緒にいられるのだからそこは我慢しなくては。今日は全部活動が休みなためバスケ部がないボクとみょうじさんは肩を並べて二人で正門を出た。



「私七組だったよ。黒子くんは?」

「……驚きました」

「え……ということは、」

「一年間よろしくお願いします」

「わあ、一緒なんだねっ」



あんなにたくさんのクラスがある中で一緒になれるとは思わず歩みを止めそうになってしまった。来年度はクラスも一緒、ということは更に隣にいられる時間が増えるということだ。柄にもなく舞い上がってしまいそうである。



「では、四月からもぜひ仲良くしましょうね」

「もちろんだよ。こちらこそ仲良くしてね」

「当たり前です。みょうじさんは大事な親友ですから」



親友という言葉にみるみる笑顔になっていくみょうじさんを眺めながらボクは四月からの学校生活に思いを馳せた。冬休み同様あまり多くない春休み。部活三昧になるだろうが、夜少しくらいならみょうじさんに連絡を取ってもいいだろうか?彼女が嫌な顔一つせず頷いてくれることは分かっていながらもボクは承諾を得ようと口を開いた。





「やだやだやだ! 私をおいていかないでよなまえちゃんっ!」

「え、っと、こればかりはどうにも……」

「何でクラス違うのー!?」



桜に恵まれた四月某日。短い春休みも過ぎ、来たる始業式当日、教室の前には駄々をこねる桃色の彼女と苦笑を浮かべたみょうじさんがいた。桃色の彼女はバスケ部マネージャーの桃井さんだ。青峰くんの幼なじみでマネージャーとしての仕事はそつなくこなす。バスケ部自慢のマネージャーと言っても過言ではないだろう桃井さんとみょうじさんは一年のころ同じクラスだったらしい。下校時間によく聞いていたみょうじさんの話のほとんどは趣味のあった本のことや勉強のこと、そして友達のことであった。中でも桃井さんは友達の話でよく登場し、話す度に頬を緩ませるみょうじさんにボクも微笑ましくなったものだ。おそらくボクは無表情に近かっただろうが。時々セット扱いとして違うクラスらしき男子も友達の話で出てきた気もする。みょうじさんが言うに元気で女子に人気な男子とはよく三人で行動していたとか。桃井さんと彼は口げんかは絶えないがなんだかんだで仲良くやっているとも聞いていた。喧嘩するほど仲がいい、ということか。

そんな桃井さんはクラスが離れたことがボクが思っている以上に悲しいのかみょうじさんの腕に必死にしがみついていた。



「さつきちゃん……! み、皆見てるし、黒子くんもいるから!」

「え、黒子くん?」

「……どうも」

「わあ!!」



ボクの姿を視界に入れたことで飛び跳ねた桃井さんに軽く会釈をする。気付かれないのはいつものことだ、さほど気にしていない。



「黒子くん、びっくりさせないでよっ」

「すみません。そんなつもりはなかったんですが」

「うっ……いいよもう……」



のりというよりボンドでも貼り付けたように密着している二人に内心苦笑しつつ「そろそろ離してあげては?」と言えば桃井さんはしぶしぶみょうじさんの腕から手を離した。とても仲がよかったことは例え話を聞いていなかったとしても今の二人を見ればよく分かる。みょうじさんが「いつでも会えるよ、遊びにきてもいいから。私ももちろん遊びにいくし」などと諭すように言い聞かせると、数分後桃井さんはやっと諦めがついたのか別れを告げて自分の教室へと歩いていった。



「よほどみょうじさんと離れたことが寂しかったんでしょうね」

「みたいだね……。私も寂しいけど、さつきちゃんなら新しいクラスでもまたすぐにお友達出来ると思うな」

「そうですね。桃井さんは思いやりのある方ですし、自然と人が集まってくると思います」

「うん」



遅れてしまったがボクたちも教室へ入ると黒板には席は自由の文字。窓側の席とその隣の席を確保し椅子に腰かける。この先みょうじさんとはいつまた席が隣同士になれるかなんてわからないから、自然の流れとはいえ当たり前のように隣に座れたことが純粋に嬉しかった。



「ところでみょうじさんは委員会何にするつもりですか?」

「委員会? ……うーん、私一年生のころは環境委員だったけど、どうしよう……続けようかな……」

「続けるならもちろんそれで構わないんですが、よければ一緒の委員会はどうでしょうか?」



同じ委員会に……?尋ねられたため頷けば、みょうじさんは考える素振りも見せず首を縦に振ってくれた。二人で入ろうとした委員会に、他に入りたいという人がいれば一緒の委員会に入れる確率は下がる。少ない……むしろいないことを望む他ない。



「やっぱり、なるとしたら図書委員かな」

「ですね。環境委員はボクに向いてない気がします」

「そんなことはないと思うけど……じゃあ図書委員なろうか。なれるといいね」

「――はい」



さあ。新学期、二年生の始まりだ。


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