教室中ががやがやと騒がしさを増す中で、それでも先生がにこやかに頬杖をついているのは生徒たちが楽しそうに話し合いをする姿が微笑ましいからだろう。教壇に立つ学級委員長が手を二度鳴らすと少しずつ静かになっていく教室。委員長は白や赤のチョークで書かれた黒板を叩きながら声を発した。



「それじゃ、二年七組は今年帝光祭にてカレー店を設けたいと思います!」



わああ、と更に声が大きくなりさすがに先生にボリュームを下げろと注意された。みょうじさんが嬉しそうに拍手をしているのが見える。出し物として決まったカレー店だが、その後「男子は燕尾服で接客をしたらどうか」や「女子は料理担当にした方が効率がいい」などと意見が出続け当日並みの盛り上がりだった。

出し物が決まればあとはただただ準備である。衣装は服飾部を中心に、カレーの材料決めは料理部を中心に、残った者は看板作りや飾りつけに仕事が宛がわれ、ボクもみょうじさんと看板の係りとして仕事を任された。



「少し意外です。てっきりみょうじさんは料理の方へ行くと思っていましたから」

「皆でデザイン考えて看板作ってみたくて。こっちには黒子くんもいるし」



少し照れたがおそらくボクの表情はいつもと変わらなかったはずだ。むしろそう信じたい。テストが終わった解放感もあるのか学校中はとにかく賑やかで、ボクも帝光祭が待ち遠しかった。

長いとは言えない準備期間で全員が団結し何かを作り上げていくという満足感、そして一つ完成していくごとの達成感で胸がいっぱいになる。



「うん! なかなかいいんじゃないコレ!」

「なまえ衣装手伝わせてごめんね」

「ううん。布押さえたり切ったりなら私でも出来たから。役に立ててよかった」



中でも衣装は中々の完成度の高さだった。クラスの男子が確認のために試着していく。不備がなければこれで当日を迎えるらしい。手袋まで再現したかったと嘆く服飾部によれば、カレーで手袋が汚れてしまうのを配慮したとのことだ。本格的だな、と思っているとみょうじさんがボクに近づいてくるのが視界に入った。



「黒子くんよく似合ってるよ」

「……そうでしょうか? だといいんですが。お世辞でも嬉しいです」

「もう、お世辞じゃないのに……」

「では、ありがとうございます」



置いてあったスタンドミラーで自分の試着姿を確認するが、似合っている……のか?まあ似合っていると言ってくれたのだから、少しはマシに見えるのだろう。



「問題はないみたいなので着替えてきますね」

「いってらっしゃい。じゃあ私もごみ捨て行ってくるよ」

「気をつけてくださいね」

「うん。ありがとう」



飾りつけの際たくさん出てしまったごみの入った袋を両手にみょうじさんは教室を出ていく。それを見届けてからボクも制服へと着替えに用意してくれた試着室に向かった。





ごみ捨ては難なく終えることが出来て私はそのまま教室へ引き返していた。重さは結構あったけれど一人じゃ持てないほどではなくて安心した。……のだが。



「すまないね。仕事を手伝わせてしまって」

「気にしなくてもいいよ。私から言ったんだし、私のクラスほぼ準備終わってたから」



私は教室へ戻らず赤司くんの荷物運びのお手伝いをしていた。生徒会としての仕事で資料室から職員室前まで段ボールを運ぶ、いわゆる雑務を任された赤司くんは一人で運んでいたらしい。廊下ですれ違ったとき三段も積み上げて運ぶ赤司くんを見かけて思わず声をかけてしまったのだ。お手伝いさせるのを渋っていた赤司くんもまだ残りがあるからそれを頼むと折れた後はやらせてくれた。

赤司くんは成績優秀、容姿端麗、運動も出来て強豪バスケットボール部で主将を務めるという有名人なため一方的に知っていたが、多分赤司くんからしたらいきなり話しかけてきたおせっかいな奴、という印象が強いだろうな。それにしても自分からお手伝いをするなんて言い出した自分には驚いた。黒子くんの居残り練習を見るきっかけになったあの日からどうも小さなことを助けてしまう癖でもついてしまった気がする。これが癖……なのかは置いておくとしても、今回のは果たして小さいことだったか。



「みょうじのことは知っていたよ」

「え?」



まるで私の心を読んでいたかのような言葉と、教えていないというのに私の名前を呼んだ赤司くんを凝視した。「前を見て歩かないと危ないよ」と諭され前を向き直すが、赤司くん何て恐ろしい人。



「どこで?」

「テストのときは緑間といい接戦を繰り広げているからね。緑間がいつも悔しがっていた。名前は上履きで見ただけだよ。君、みょうじなまえさん……だろう?」

「うん……。でも、緑間くんの方が私よりずっとずっとすごいから……」

「緑間のことになるとへりくだるのは本当みたいだね」

「う……」



学年一位に勉強関係で名前を覚えていてもらえるなんて光栄だ。赤司くんは段ボールを抱えなおしつつ言葉を続ける。



「バスケ部員と帰るときが時々あるが、桃井と黄瀬の話にはよくみょうじが出てくるよ」

「私が?」

「ああ。それでいてみょうじの話題になると最近は黒子もよく登場するな」

「……それは多分よく一緒にいるからじゃないかな?」



思い出すとほとんどの時間を黒子くんと一緒にいる気がする。気がするというか、間違いなく一緒にいる。バスケ部員というのは前に一度だけ一緒に帰った紫原くんたちを含めたあのメンバーらしい。



「なんだか楽しそうだね」

「……すごく楽しいよ。あいつらとの時間は」



ふっと笑った赤司くんの表情はとても穏やかで、やはり仲間を……友達を信頼しているんだろう。……じゃあ私は友達を、親友を、皆を本当に信頼している?心から胸を張って、信頼していると言えるか?



「みょうじ?」



――してるよ。だって、大切な人たちだもん。



「何でもないよ。ごめんね、大丈夫」



帝光祭、いい思い出にしよう。赤司くんは私に荷物運びのお礼の後にそう言った。そうだね、いい思い出に出来るように。嫌なことなんか忘れちゃうくらい、楽しくなったらいいな。


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