理科の実験の片付けで随分遅くなってしまった。お昼の時間がなくなってしまうといつもより早足で教室へ戻ると、お弁当が入ってるであろう巾着袋を机の上に置き読書をするみょうじさんの姿があった。もう食べ終わったのだろうか。声をかけると視線を本からボクへ移した。



「黒子くん、片付けお疲れ様」

「ありがとうございます」

「うん。じゃあ食べようか」

「え」



部活についての話し合いのとき以外は食堂ではなくお弁当を食べている。確かに食堂の料理は美味しくて安いが、だからと言って毎日食堂というわけにもいかないからだ。いくら学生のお財布にも優しい値段だからといってもやはり限界がある。今後マジバでシェイクを飲むためのお金も貯めとかないといけないことから、お弁当の方が何かと便利なのだ。……正直に言えばマジバが一番の理由である。

話を戻すがてっきりボクはもうみょうじさんは食事を終えたかと思っていた。先ほども言った通り部活についての話し合いが時々入るために、ボクが教室にいないときは先に食べていていいということは前から言ってある。クラスメイトや、四組には確か桃井さんもいたはずだし、他の人と食べていてもよかったというのに。



「もしかして片付けが終わるの待っててくれたんですか?」

「そうだけど……これから何か用事でもあったかな? 今日は図書委員の当番なかったよね」

「ありませんが、もしボクに何か用事があったらどうしたんですか……」

「そのときは一人で食べるから大丈夫だよ」



言いたいことは色々あったが待っていてくれた事実は素直に嬉しくお礼を言う。みょうじさんの微笑みを合図にするようにボクは自分の鞄の中からお弁当を出してみょうじさんの隣の席の人の椅子と机を借りた。



「テストが終わった……ということは、そろそろ学園祭の準備が本格的に始まりそうですね」

「学校中帝光祭の話で持ち切りだもんね。私たちのクラスは何をやるんだろう」

「さあ……何にせよ楽しみではあります」



ウインナーを口に入れ気付けば暦も六月に入っていたんだなと改めて実感した。学園祭――帝光祭が間近ということで準備すらまだだというのにどこもかしこもお祭りムードだ。



「今年もクイズ研はスタンプラリーやるらしいね」

「ああ、それボク巻藤くんに誘われて一緒に出ることになりました。優勝目指して頑張ります」

「へえ……! 応援してるね。頑張って!」

「はい。優勝賞品であるバッシュ、必ず取ります」



いつもお世話になっている青峰くんにお礼の意味もこめてぜひプレゼントしたいことを伝えるとみょうじさんは納得したように頷いた。一年の頃から何かと青峰くんには助けられている。だから優勝して手に入れたらぜひ彼に渡したい。クイズ研の出し物について教えてくれたのは言わずもがな赤司くんだ。



「ところで話は急に変わるんですが」

「おお、唐突だね。どうしたの?」

「みょうじさんはお弁当も自分で作ってるんですか?」



以前家事を引き受けていると聞いたことを思い出して問うとはにかみながら返事をしてくれた。



「お昼は冷凍食品ばかりだけど。凝ったものは苦手で」



今日作ってきたのは卵焼きだけらしく箸でそれをつついている。みょうじさんとしては料理をするという行為が当たり前となっているのか褒められることに慣れていないらしい。すごい、と言う度に恥ずかしそうに目をそらす彼女を見てくすりと笑みをもらした。



「ボクの母親もよく卵焼き作ってくれますよ」

「……いいなあ。黒子くんのお母さんのお料理、いつか食べてみたい」



そこではっとする。みょうじさんが家事をしているのは両親共に忙しいためだ。あえて料理と言ったのにはきっとそれも関係している。



「今度、」

「ん?」

「家に遊びにきてください。きっと皆歓迎すると思いますから。ボクも腕によりをかけて作る手伝いをします」

「……ふふっ、お手伝いなんだ。楽しみだなあ」



みょうじさんは満足した顔つきでつついていた卵焼きを咀嚼していた。ボクの不用意な言葉で傷つくみょうじさんをなるべくなら見たくない。それでももっと歩み寄ると決めたのだ。ずっと顔色を窺って行動するというわけにもいかない。だから、少しずつ。



「みょうじさん、家族構成は両親だけなんですか?」

「ううん。お父さんとお母さんと、……あと三つ上の兄さんが一人いるよ。四人家族なの」

「……、なるほど」



一気に聞かずに一つずつ気になっていることを消していこう。

なんて頭を使っていると今日はデザートがついていることに気付いた。これは……確か昨日お隣さんからもらったという苺だ。せっかくみょうじさんもいるのでボクは苺が入っていた小さなタッパーを開けて一つどうですか?と勧めた。嫌いじゃなければいいのだが。しかしみょうじさんの目が心なしか輝いて見え、そんな気持ちは杞憂に終わった。



「では、はい。どうぞ」

「わあ、ありがとう!」



付属していたつまようじに苺を刺してみょうじさんの口へ運べば美味しそうに食べてくれて安心した。ボクも食べてみたが、とても甘かった。時季的に買ったものだろうがすごく高かっただろうな。



「……え。これ指摘する方がおかしいんスか? なんかナチュラルにいちゃついてるんスけど」

「私もテツくんにあーんってされたい……!さり気なくするところもかっこいいっ!」

「オレは自分が正常だって信じることにするっス」



遊びにきたらしい黄瀬くんと桃井さんの会話により、ボクに食べさせられたことが時間差で恥ずかしくなったのか顔を赤くして机に突っ伏してしまった。口では謝りつつ、可愛いなと思ったことはボクだけの秘密である。


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