「テスト期間かあ……」

「毎回この期間が来ると少し憂鬱になります」

「結果が出るものだもんね……私もドキドキするよ」

「それは憂鬱というより緊張では?」



学生の苦難の一つと言っても過言ではない行事、定期テストが近づいてきた。テスト一週間前からはどの部活も強制停止。バスケ部ももちろん停止期間に入りこれからテストが終わるまでは部活なしで勉強三昧の日が続きそうだ。青峰くん辺りがさっそく音を上げそうだが今は自分の勉強が優先である。ボクはみょうじさんの提案で一緒に勉強しようということになった。テスト範囲の数学が心配だと漏らすと「数学は範囲の勉強大体終わってるから教えられると思う」と教えてもらえることになったのだ。図書室や自宅での学習の人が多いのか比較的人が少ない教室の隅でクラスメイトの机を借りて教科書やノートを開く。お互い教えあうのがベストだと思うのだが、あいにく毎回平均点並みのボクの点数では教えられる教科もないだろう。実際に教えてもらっている立場から言わせてもらえばみょうじさんの説明はわかりやすい。かなり高得点を取っている人の教え方だ。一年生最後のテストのときに赤司くんに教えてもらった際にも思ったので間違いない。



「みょうじさんは今のところ心配な教科とかありますか?」

「……やっぱり英語かな? スペルミスとかしそうで、毎回見直しに時間がかかるんだ」

「でも見直しする時間あるんですね……。ボクはいつも時間いっぱいまでかかってしまうので見直しする時間がないんです」

「黒子くんって解けない問題飛ばさなそう」

「なんだか悔しくて。それでも間違えるところは間違えるんですけどね」



静かに会話をして、小さく笑う。勉強の合間にする会話のため話の展開は少ないがこれはこれで楽しいものだ。しばらく教科書を読んでも分からないところを教えてもらうという作業を繰り返した。



「……みょうじさん順位どれくらいなんですか」

「い、いきなりどうしたの……?」

「純粋に気になってしまって。言いたくないですよね、忘れてください」



聞いた問題に対して教科書も何も見ないで的確にヒントを出してくれるものだからつい口に出してしまった。しかし聞かれて嫌な人がいるのも事実なので謝るが、みょうじさんは首を振って答える。



「順位なら毎回公開されてるから、私」

「……まさか、」

「あはは……別に大したことでもないんだけどね」



ボクからしたら十分大したことなのだが。





壁にバンと貼り出された大きな紙の前には既に結構な人数が集まっていた。みょうじさんの手を引き人の密集が少ない位置へ移動して、ボクは紙の方へ目をやる。自分には関係のないものであったために一年生のころ見たことは一度もなかった。


1位:赤司 征十郎
2位:緑間 真太郎
3位:みょうじ なまえ
  ・
6位:紫原 敦
  ・
10位:――


定期テスト上位者順位発表。上位十名の成績優秀者を一週間ほど貼り出すというもので、上位を目指し勉強を頑張る原動力と言われている。実際この紙に貼り出される名前は大体いつも同じ名前らしいので、今ここに集まっている人たちは興味本位か名前見たさだろう。上位者発表に関しては無関心だったためにみょうじさんがこんなに上位の人だとは知らなかった。開いた口が塞がらない、とはこういうときに使う言葉だ。そんなボクの隣でみょうじさんは「緑間くんの下に名前があるなんておこがましい……」と呟いていた。それに対しての突っ込みは割愛させてもらおう。



「確かにこれは憂鬱より緊張の方が大きいですよね……三位なんてさすがです」

「本当に大したことないよ」



謙遜しながらみょうじさんは紙を眺めて苦笑した。



「ただ、学校でも家でも勉強しかやることがなかっただけだから……」



何てことない一言でもそれを聞き逃さなかった。こういうときすぐ言葉が見つかるような人間ならばいいのだが、あいにくボクはそんな器用に出来てはいない。どう返していいのか分からず結局ボクは言葉ではなく行動で返事をすることにした。先ほど引いていた手を握って教室に戻りましょうと一声かけてから歩き始める。笑顔でうんと握り返してくれるみょうじさんにボクも微笑みを返した。



「む。みょうじ……、と黒子」



しかし教室へ向かうはずだった足はすぐに一度止まり、ボクとみょうじさんの視線は同じところへ注がれた。緑間くんである。ボクはついでというより単純に見えなかっただけだろう。



「どうも」

「……お前たちも順位発表を見に行ったのか」

「は、はい。えっと……緑間くん二位おめでとうございます」

「ふん。オレは赤司を抜かすまでは素直に喜べないのだよ」

「どうせ赤司くんを抜かしても素直に喜ばないでしょう……」



聞こえないように言ったのだが、緑間くんの耳には入ってしまったらしく「黒子!!」と怒られてしまった。とりあえずすみませんと謝ったのだが、それが結構心のこもっていない声色となり更に怒りを買ってしまったが気にしないことにする。



「それよりあれを見てようやく思い出したのだよ。初めて会ったときどこかで名前を聞いたことがあると思ったら、一年のころからオレの一つ下か同じ順位を常にキープしている女だな」



眼鏡を上げみょうじさんに言い放つ緑間くんの言葉にみょうじさんは瞬きを数回し、一気に顔を青くし美しいくらいに角度よく頭を下げた。



「ごごごめんなさいっ! やっぱりおこがましかったですよね!」

「いや、別に責めているわけではないが。……おい頭を上げろ、さすがに注目を浴びるのだよ」



ボクとしては「え、今更思い出したの」くらい言ってもいいと思うのだがみょうじさんは尊敬している緑間くんにただただ謝るだけだった。先ほど否定しなかったからおこがましいという思いは消えていなかったらしい。毎度好成績を残す緑間くんも十分すごいが、その緑間くんの一つ下か同じ順位を取り続けるみょうじさんも十二分にすごい。

謝り続けるみょうじさんになんとか顔を上げさせ、緑間くんと別れ一息つく。別れ際に「それから、学校内で手など繋ぐな」とお叱りを受けてしまった。君は生真面目な風紀委員ですか。ちなみにみょうじさんに教えてもらった数学だが、結構な高得点で数学だけなら学年で上位の方を取れた。問題集の中でテストに出そうな問題がいくつか当たっていたのには驚いたが。



「また今度一緒に勉強してもいいですか」

「もちろん、テスト期間のときはいつでも聞いてね」

「いえ。そうではなくて」



テスト期間以外のときもみょうじさんさえよければ。ダメですか?と尋ねると、みょうじさんの目がゆっくりと細められた。



「いいよ」



断る理由がないからね、と続けるみょうじさんが繋いでいる手に更に力を込める。それに応えるようにボクも痛くない程度に握り返した。


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