「やべえぞ」

「やばいのは青峰っちの頭じゃないっスかね?」

「お前の成績オレとあんま変わんねえだろ!って頭の話じゃねえよ。テツの話だ」

「え、黒子っちがどうかしたんスか?」



部活終わり。体育館の扉付近でチームメイト数人の着替えが終わるのを待っていると、青峰っちが思い出したようにやばいと呟いた。どうせくだらないことだろうと流そうとしたのだが、聞いてみれば黒子っちについての話らしい。食いついたことに気付き青峰っちは続きを話してくれた。



「女子とめちゃくちゃ仲良くしゃべってた」

「もっと詳しく」

「最初は女子が壁に向かって一人でしゃべってるの見つけて頭の心配したんだけどよ、よく見たら前にすげえ笑顔のテツがいて……」

「えええ、すごい見たかったんスけど……」



その光景を頭に浮かべてみれば更に見たすぎる。だって普段は落ち着いてる黒子っちの満面の笑みだ、貴重じゃないわけがない。黒子っちは笑わないわけではないがいつも微笑程度だ。青峰っちの言うすげえ笑顔の黒子っちはとても見たい。すごく見たい。



「テツに聞いてみたんだけどよ、親友だって言うだけで他の情報教えてくれねえんだよな」

「へー……名前も教えないとか黒子っちその女の子のこと誰にも言いたくないんスかね?」

「あ。名前聞いてなかったわ」

「アホっスか!?」



ただ青峰っちがバカだったということで話が終了してしまった。うん、分かってたけどね。いつもオレと定期テストの合計点あまり変わらないし。オレも人のこと言えない点数取ってるけれども。名前さえ分かれば人づて(主に女の子)から何か聞き出せたかもしれないのに……。



「なんか気になってきたっス……誰だろう、黒子っちの親友って……」



てか黒子っち本人に聞けばいいのでは?答えてくれないわけではなさそうだし、単純に青峰っちが深く聞かなかったからこんな浅い情報なのだろう。



「しかも女子だしなー。あ、でももうちょい欲しかったわ」

「何を?」



オレに問われた青峰っちがすっと胸元に手をやり山を作った。……うん、分かったっス。オレはとりあえず青峰っちの頭を軽く小突いた。いつももっと強くやられてるのだからこれくらい許してほしい。黒子っちが親友と自分で言っているほどだ、相当いい人のはずである。今の一発は黒子っちからの制裁だと思って反省してほしい。当の本人は痛えよ!と文句を垂れていた。





「……簡潔にまとめれば、ボクの親友が気になるということでいいでしょうか?」

「はいっス!」



元気よく返事したオレに対して、青峰っちはあくびを漏らしていた。いつも着替えが終わった途端早急に帰ってしまう黒子っちを捕まえて問いただすこと数分。親友が気になるという内容だと気付くと小さく頷いた。



「別にいいですよ。隠してるわけでもありませんし」



あっさりと承諾してくれた黒子っちに、聞いて正解だったと思っていると青峰っちが黒子っちの肩に腕を回した。



「テツのタイプってあんななのな」

「……彼女をタイプとかで見てません」

「あー青峰っちが黒子っち怒らせたー」

「いやテツ普通にこえーよ!お前のそんな顔初めて見たわ!!悪かったって!」



ちょっとからかってやろうみたいなノリだったのだろうが、やはり青峰っちはバカだ。この流れからして黒子っちがその子に恋愛的な感情を抱いているとは思えない。睨んでいる黒子っちにまじってオレも呆れた表情で見ていればなぜだかオレだけ軽く叩かれた。酷すぎる!

そこで当初の目的を思い出して、ついでにずっと気になっていたことを尋ねた。



「名前何て言うんスか?」

「みょうじさんです」

「…………ん?」



急に固まったオレに二人が顔を見合わせて首を傾げる。オレだって首を傾げたい。同姓なんてどこにでもいるものだ、と自分を落ち着けてから咳払いをする。



「ごめん黒子っち。フルネームで教えてもらっていいっスかね……?」

「? みょうじなまえさんですが……。知り合いですか?」



丁度壁際にいたため赤くならない程度に額をガンとぶつけた。着替え終わったのか出入り口から出てきた緑間っちにいかにも「何だこいつ」という目で見られてしまったが関係ない。知り合い……うん。きっとオレと彼女は知り合いというカテゴリに入るはずだ。

青峰っちにもしかしてキープ?と聞かれ、本命さえいないのにあらぬ誤解が生まれそうだったため急いで口を開いた。



「知り合いつか……」



友達っスわ。驚かれると思いきや、どこか納得したようにやっぱりと頷く黒子っちにオレの方が驚いてしまう。



「いえ。前から女子に人気な男子の友達がいるとは聞いていたので、コミュ力があってみょうじさんが仲良くなりそうな人といえば消去法で黄瀬くんしかいなかったので……もやもやが取れました。ありがとうございます」

「珍しくべた褒めされてめちゃくちゃ照れるんスけど」

「オレコミュ力ねえの?」

「彼女、桃井さんとも友達なのでその男子が青峰くんだったら多分すぐ気付いてましたよ」



一年のころの思い出が一気にフラッシュバックされて、桃っちとなまえっち、オレの三人で仲良くしていたころが思い出される。……いや、喧嘩ばかりだったような気もするけれど、基本的に仲はよかった……はずだ。多分オレがバスケ部に入っていなかったら桃っちとは今でも喧嘩仲間?だっただろうなあ……。しみじみとしているとごめーんと間延びした声が響いた。



「お菓子部室に落としちゃってさー」

「オレが片付けるまで更衣室から出るなと言ったのだよ」



緑間っちがため息をつきつつ説明をしてくれて苦笑した。おそらく赤司っちもいたため断るにも断れなかったのだろう。素直に従ったところを見るに赤司っちにも言われたに違いない。赤司っちはきっとまだ仕事が残っている。少し不貞腐れている紫っちが来たことで全員揃ったため帰ろうとしたのだが、なぜか校舎への道へ引き返した黒子っちを呼び止めた。



「えええ、ちょっと黒子っち。忘れ物っスか?」

「……いえ。いつもみょうじさんと帰っているので、教室へ迎えに」

「マジで!?」



それを聞いて、オレたちがすることはただ一つであった。





「え、え? これどういう状況なの?」

「すみません。今日だけ皆で帰ってもいいですか?」

「うん、もちろん私はいいんだけど……迷惑じゃない?」

「ぜーんぜん! むしろ大歓迎っスよなまえっちー!」



黒子っちと歩いてきたなまえっちの顔は困惑で染まっていた。そりゃそうだ。帰ろうと思ったら正門に男子数人が待っていたんだから。でも今は女子も一人増えていた。



「なまえちゃん昨日ぶりー!」

「さつきちゃん、涼太くんも……実際に会うの少し久しぶりだね」



やることは全部終わったから一緒に帰ろうということになり桃っちも追加され、結構な大人数で帰ることとなった。桃っちとなまえっちは昨日LINEで会話していたらしくそのことで少し盛り上がっている。三人でのグループ作ってるのに二人だけで会話してるのは何!?って思ったけどまあ女子同士だしね……寂しくないっスよ……全然。しょんぼりしていたのが見えたのかこっち来ていいよと手招きしてくれるなまえっちに涙が出そうになった。何あの子。いい子すぎる。

しかし突然誰がいるのかを確認したかったのかオレたちを見回したなまえっちがびしりと固まった。視線を追えば、そこにいるのは今日のラッキーアイテムであろう電子辞書を片手に持った緑間っちの姿。見つめられていることに気付いた緑間っちが一歩後ずさってずり落ちた眼鏡を慌てて上げる。なまえっちはあたふたすると黒子っちの背中へ隠れてしまった。



「ミドチン何かしたの?」

「言いがかりはやめろ紫原!こいつと会ったのは今日が初めてなのだよ」

「……っ、みょうじなまえです……」

「緑間くん許してやってください。みょうじさん緑間くんの純粋なファンなんです」



緑間っちのファン、というのは初めて聞いて思わずえ!?と声を上げる。純粋なファンというのはバスケだろうか?桃っちも初耳らしく驚いている様子だった。



「去年の合唱コンクールで弾いていたピアノに心打たれたそうですよ」

「バスケじゃないんスね!!」



しかも合唱コンクールでのピアノとか……!そういえば緑間っちピアノやっていたような気も……。……うん、ぶっちゃけ発表クラスが多すぎて途中寝てたから覚えてないけど。



「よろしく、お願いします。緑間くん……」

「……ああ」



よろしく、と呟くように囁いた緑間っちが「こいつのフルネームはどこかで聞いたことがあるのだよ」と続けた。本人もあまり思い出せないようだったので、いつか思い出すということで話はまとまった。



「なまえちゃん、ちなみにこっちは青峰くんに、紫原くんだよ」

「青峰大輝。よろしくなみょうじ」

「……あ」



見覚えがあるのか青峰っちを見て声を漏らす。しかしそれは一瞬だけですぐに笑顔でよろしくねと声をかけていた。紫っちも「紫原敦だよーよろしくー」とやはり間延びした声で自己紹介をしたところで、ようやく正門から足を踏み出したのだった。



「で、話が見えないんだけど何でみょうじちん一緒に帰ってんの?」

「なんか話が盛り上がっちゃったんス」

「ふーん?」


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