一周年企画 | ナノ






辺り一面に広がる緑に私は感嘆の声をもらした。やはり戦国時代の木々はとてもきれいである。毎度見ていることながらこうして改まってみると感動してしまう。
まあよく考えてみれば、最近は妖怪妖怪弥勒さまへの説教妖怪でちっとも休む暇なんてなかったからなあ……。仕方がないのかもしれない。
疲れをとるかのように軽く伸びをしていると後ろから草木を踏む音が聞こえた。おい、と声をかけられて誰なのかに気付く。私は小さく笑って振り向いた。



「やっほー」

「何がやっほーだこら。お前がいないとかごめの忍者食が食えないだろうが」



あれが忍者食ではないと何度言えば分かってくれるのだろう。苦笑しながらごめんと謝ったが私が動く気がないのを察知したのか怪訝な顔で彼――犬夜叉は歩みを進めた。
私の隣へ来ると犬夜叉は黙ってじーっと私を見つめ続ける。……うん。視線から俺は腹へってんだよオーラがすごい。



「すぐ戻るから先に食べててってかごめちゃんに伝えて?」

「本当にすぐなんだろうな」

「うん」

「……じゃあ、待ってる」



まさかそんな返答が返ってくるとは思わず犬夜叉を凝視していると、ばつが悪そうに頬をかいた。草の上に私が動かない限り自分はもう動かないぞと言うかのように胡坐で座る。
お腹すいてるなら戻ればいいのに、なんてことを思いながらも嬉しくなっている自分もいたため素直にお礼を言って私も腰を下ろした。

私と犬夜叉の間にどこか心地よい沈黙が流れる。これが他の人とだったら居心地が悪い沈黙になっていただろう。
思い返してみると、こっちへ来た当初はただただ妖怪が怖いだけの毎日だったのに気付けば犬夜叉の隣にいるのが当たり前になっていた。

確かにこの時代での生活は常に死と隣り合わせのような毎日になっているけれど、自分の身は守れるくらいの武力は(微力ながら)つけたつもりでいるし、何より犬夜叉が私を必ず守ると言ってくれた。
自分の力の限界を感じる前にいつの間にか犬夜叉が私を守ってくれている。私の今の目標は犬夜叉に「俺の背中は任せたぜ」と言わせることだ。
と言っても、本当にそんなことを弥勒さまたちではなく私に言うのだとしたらきっと犬夜叉が命の危険を心から感じなかったときだろう。
強い相手がいるのにも関わらず私に背中を預けるなんて犬夜叉の性格からしてありえない。私が戦う意志を持っていても私は敵ではなく犬夜叉の背中を見ることになると思う。



「……犬夜叉」

「なんだよ」

「私、強くなるね」



犬夜叉が私を極力戦わせないようにしてるのは優しさと心配からだと頭では十分に理解している。
分かってはいるけれど、私はもっと強くなって自分だけではなく誰かを守れるようになりたい。
守ってもらえるのはありがたいことだし、何よりその気持ちが嬉しいことなんて私はこの身をもって確認している。しかし同時に誰かを守るという行為は生半可な気持ちでは出来ないことも知った。
当たり前だ。自分一人の他に守らなければいけない人物が増える。それがどんなに大変か……。私はこの誰かを守りたいという思いのなかに、犬夜叉の負担を減らしてあげたいという思いもあった。
単なる自分のエゴかもしれない。犬夜叉にとったら余計なお世話なのかもしれない。それでも私は、強くなって誰かを守るということをしたかった。



「……はあ」



私の言葉を聞いた直後、犬夜叉が大きなため息をついた。
急なため息を不思議に思い私はそっと犬夜叉を見る。ばちっと合った目線が逸らせず、見つめ合うこと数秒。
犬夜叉は何か言いたげに口を開いたあと再度閉じると、何も言わず乱暴に私の頭をがしがしと撫でた。



「え!? ちょ、なに!」

「………」



すぐに手を離したが髪の毛はすっかりぐちゃぐちゃだ。私は何するのーと言いながら手櫛で軽く整える。
まだ黙ったままの犬夜叉にどうしたのか聞こうとすると、その前に犬夜叉がやっとのこと口を開いた。



「強くなろうって言ってるうちは、強くなんかなれねえよ」



え、と思わず聞き返してしまった。犬夜叉の顔は至って真剣で、必死に言葉を探して私に伝えようとしているのに気付き私は言葉の続きを待つ。



「俺も昔は妖怪になって強くなろうって、つーか見返してやろうって必死だったから強くは言えねえけど……強くなろうと思えば思うほど強くなれねえもんなんだってお前らといて気付けたんだよ」

「………」

「仲間が後ろにいるだけでいつの間にか力が湧いてくる。守るものがあるだけでいつも以上の力が出せるんだよ。なまえはどんなことが起きたとしても逃げずにちゃんと立ち向かおうとしてるだろ。……俺はお前のこと弱いだなんて思ったことねえよ」



昔は別だけどな、と余計な一言を付け加えられた気もするが今はそんなことが気にならないくらい胸がいっぱいで無意識にぎゅっと胸のあたりの服を掴んだ。
まるで私の不安を知っていたかのような言葉に、何とも言えない感情が溢れてくる。



「あんまり焦んな。何かあるなら話くらい聞いてやらあ」



また髪の毛が乱れるくらい強く頭を撫でられた。むしろ揺さぶられているような乱暴な手つきだったが、私はその手を拒否することなく受け入れる。
ありがとう、と呟くように伝えると耳のいい犬夜叉はそれを聞き取り「おう」と笑った。

私は離された犬夜叉の手を両手でぎゅっと握る。犬夜叉ははじめこそ驚いていたものの恐る恐るといったように優しく握り返した。



「……本当にありがとう」

「馬鹿野郎、別に俺は思ってること言っただけだ」



犬夜叉なりのどういたしましてを聞いて私はふふっと笑みを零し、ほんの少し滲んだ世界に気付かないふりをした。
今はそんな滲んだ世界を見るよりも、犬夜叉に笑顔を見せたいのだ。

ああ、なんだかお腹がすいたな。

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