1.巻き憑きました

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学校の帰り道。市松こひなは、訳あって同居のような関係になった狐がいる自分の家へと足を運んでいた。ランドセルを背負い直し、今度はいつカップメンが食べられるだろうと思考を巡らせていたときだ。こひなは数メートル先を見つめつい声を漏らした。



「……あー」



遠目からだとただの白い物体としか見えなくもなかったが、長い体と鱗があるのに気付けばもうあれは蛇としか言えなくなってしまったのだ。しかもなんと縁起のいいことだろうか――こひなが見たのは白蛇。これから何かいいことが起こるのだろうか。
しかしこひなは直感した。このままでは何かよくないことが起こると。

見たところぴくりとも動かない蛇。こひなは見なかったことにして通り過ぎることにした。
無表情で、毒を持っていたときのことを考えなるべく離れて横切ろうとする。
珍しかったためにもう一度だけ…とチラリと視線を先ほどより近くなった蛇に向けた。



「……怪我、してるのです?」



そこでこひなはさらに気付いてしまった。白蛇の体には至るところにかすり傷があり、何やら弱っているように見える。動かなかったのではなく、動けなかったらしい。
どうしたものかとこひなは少し考えた。人形は何事にも動じないを忘れずに、とりあえずきょろきょろと辺りを見回す。丁度いいサイズの棒を見つけて、そっと白蛇をその棒で持ち上げた。
こひななりに考えた結果、とりあえず家に持ち帰って手当てをしようという考えに至ったのだ。



「白蛇は、カップメンの具材にはなるのでせうか」



人間の三大欲求である食欲を抱えながら、だが。



―――


「コックリさん。コックリさん」



蛇を棒にぶら下げながらの下校は通行人たちの目を引いてしまったが、なんとか家に帰ってくることが出来た。
まずはコックリさんを呼ぼうと玄関から呼んでみたのだが、返事が返ってくることはなかった。草履がないのを見ると買い物にでも出かけているのだろう。

居間につくと慎重に畳の上へ棒ごと白蛇を置いた。救急箱を取ってからランドセルを自分の隣へと降ろし、蛇の傷ついているところへ処置をし包帯を巻く。
蛇に触るのは抵抗があったが、触らず処置をしようとしたところ間違えて触れてしまってからは普通に触れるようになった。一度触れば怖くないものだとこひなは構わず包帯を巻いていった。
元々の色が白色の蛇なだけあり、包帯の色とほぼ同化している。綺麗だと思う反面、やはり美味しいのかという食欲の目で見ているのも少しはあった。ぶれない人形である。

この傷で最後、と包帯を巻き始めた直後、白蛇が静かに目を開けたのがこひなの目に入った。



「おはようなのです。白蛇さん」



毒を持っているという可能性がまたも浮かんだが、自分をじっと見つめて未だに動こうとしない蛇を見て噛みつかれることはないと判断し止めていた手を再度動かす。
「怪我をしていたようなので、処置をしてるのです」と伝わるはずもない言葉を投げかけてみる。もちろんのことしゃべるはずもない白蛇は尾のあたりが少し動いただけであった。

最後の包帯が巻き終えると、こひなは蛇を手当てしたことへの満足感で一人どやっと余りの包帯を上に掲げた。
そこで反応することしかしなかった蛇がゆっくりと近づいてくるのに気付き、こひなは上げていた手を下ろして蛇を見つめる。
白蛇はこひなの手元へ来ると、細い舌でその手を二、三度舐めた。



「……これは、お礼ですか?」



意味が分からず聞くと白い蛇は目を此方へ向けて、今度は頭を擦り付けた。もしかしなくても、懐かれたらしい。
すっかり警戒心がなくなったこひなは親指を蛇の方へ持っていく。白蛇も出された親指を舐めることで、まるで害がないことを知らせているようであった。

じゃれあっていると、蛇は突然こひなの腕に巻きつく。愛情表現だろうかと思いながらよしよしと蛇の頭を撫でる。



「わたしは市松こひなといいます。白蛇さんにも今度名前をつけてあげるです」



カップメンの具材にするのは諦めようと思い、コックリさんが留守中の間に食べてしまおうとこっそり隠してある場所へ移動しようと立ち上がった。
さあカップメンと意気込むと共に、ぽんっという音と煙が舞い、突如片腕の重みが増す。そこは白蛇が巻きついていたところで、こひなは腕を見て自分の目を疑うこととなる。



「………」

『市松こひな様……命の恩人ですっ』



知らない少女が白蛇のいたはずの腕へと絡みついていたのだ。
年は中高生くらいだろうか。青みがかった長い黒髪に、裾が短い着物を身にまとった少女。
自分は人形。いきなりの少女の登場にも、動じず言葉を発した。



「誰でせうか」




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