10.深夜の会話でした
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ようやく離された手を握ったり開いたりとせわしなく動かして数分。
襖が開く音と共に「お散歩行きませう」という声が聞こえる。
念願のこひなにさぞかし嬉しかろうと思いきや、狗神の口から発せられたのは決して歓喜の言葉ではなかった。
「何のつもりでございましょうか」
「え? ばれちゃった? 敗因はやっぱりウィッグが本物より赤みがかってるからか? さすが嬢ちゃんのストーカーだぜ」
「何もかもが違いますが」
現れたのがこひなのコスプレをした狸、もとい信楽だったのだ。
白蛇もこれには呆然としていることしか出来ず、拍手をして此方へ歩いてきたこひなへ目をやるしかなかった。
「偽物と見破るとはさすが狗神さんです。まずはほめておきませう」
『……こひなちゃん、信楽さんと何やってるんですか?』
「ですが、まぐれは二度続きません。さあ狗神さん。二人を高速でシャッフルし並べたとき、果たして再び本物を当てることができるでせうか?」
『む、無視……』
「あなた方は何がしたいのでございますか?」
この茶番の意味は分からないが、突然こひなは賭けを持ちかけてきた。
本物のこひなを当てれば信楽と散歩へ、間違えたら本物のこひなと散歩へ行く、というものだ。
もちろんのこと、狗神にとって信楽をこひなと言うことは自殺行為に近いことだ。雰囲気から散々迷いに迷っているということが分かりいたたまれない。
最終的に血涙を流し狗神が出した結論は、
「こんな化物、我が君ではございません!!」
「正解だ。おじさんとお散歩しませう」
『……え? 何ですかこれ』
己の愛を貫くことだった。
こひなはにやりとしたあと、どこからともなくトランプをサッと取り出す。
白蛇の目が輝き始めたのを確認したのかこひなが口を開く。
「白蛇さんはこれで市松と次対戦するときのために神経衰弱の腕を磨いていてください」
『わあああ、はい……!』
まんまと乗せられた白蛇は、なぜか泣きながら帰ってきたコックリさんに気付くまで一人黙々と神経衰弱をやっていた。
散歩から戻った狗神からは生気が抜けていたという。