9.進展の兆しでした
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白蛇は眉を八の字にして終始キョロキョロ辺りを見回すこひなを見つめていた。
数日ほど前からだろうか。話しかけても反応はあるがどこか上の空。
さすがにどこか調子でも悪いのかと心配になってきていた。
すると、こひなが突然「……みえる。動く丸がたくさんいるのです」と呟き始めた。これは本格的にコックリさんに相談するほかないのかもしれない。そっと立ち上がり襖へと目を向ければ明らかに動揺して震えているコックリさんとお酒を飲む信楽の姿。信楽はいつの間にか可愛らしいアニマル姿へと変貌していた。
コックリさんに相談しようとしていたのだが、これほどまでに動揺していては相談も何も出来ない。
「動く丸って……ソレ、飛蚊症じゃねえか?」
「ひぶん…しょう」
眼球内のゴミが見えてるとかってやつだったかー?と信楽は首を傾げ、動く丸とやらを探し続けるこひなに病院を勧めた。
保険証を探し始めようとするコックリさんを尻目に、こひなが空中の何かをバッと掴み口を開く。
「これが飛蚊症なのですね」
「それ飛蚊症違う!! 霊障だ!!」
こひなが掴んだのは眼球に見えるゴミではなく、妖であった。
コックリさんが言うには、自分たちと共にいる時間が多くなりこひなの霊感が強くなってしまったのではということだった。しかし多くの妖は人と相容れない存在だ。極力目を合わせるなと注意する。
だが一向にこひなの返事は聞こえず熱弁のために閉じていた目を開ければ、妖に絶賛食べられ中のこひなが目に入りコックリさんは大声をあげながら救出した。
「白蛇は見てないで助けてあげなさい!」
「人形は、消化液に動じませんのでご安心を。と、市松が言ったのです」
「何の強がり!?」
『す、すみません』
「いや、蛇の嬢ちゃんは全く悪くねえよー。ヒック」
消化液で溶けかけたこひなの顔を登場した狗神によって修正したり、興奮のあまりやりすぎてしまった顔を元に戻すために再度消化液で顔を溶かした狗神を殴ったりと忙しなかったが、とりあえずこひなには危ないから近づくなということだけを簡潔に伝えた。
『でも……まだちょっと心配です……』
「そうか…? ……じゃあ、これもっておけ。退魔の札だ」
「これはどういうときに使うのです?」
「悪霊に襲われたり危ないときに使うんだぞ」
「……危ないとき?」
こひなの後ろにはくーんと猫なで声を出しながら抱きつく狗神の姿。
本人はここだ、と思いお札を貼ったのだろうが、もったいないから身内で試すなと怒られてしまっていた。
それからというもの霊感が覚醒したこひな。だがあまり今までの日常と変わらず、近づかない、目を合わせない、といったコックリさんの言いつけを守り平凡に過ごしていた。
後日怪我した一つ眼を治療したところ懐かれるという白蛇と同じような状況になってしまい、一つ眼がコックリさんによってバットで空へ投げられることになる。