8.ツンデレでした
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こひなが学校でいじめられていないか等とコックリさんが騒ぎだして学校へと(本人曰く)様子を見に行ったのが五時間前。
既に夕日が立ち込め、そろそろこひな達も帰ってくるころだろうか。
白蛇は腰を上げ草履を履き、最近覚えた学校までの道を歩き始めた。せっかくだから迎えにいこうと考えたのだ。
『正門にはこの道……? あれ、それとも……こっち?』
迷子にならないように記憶を辿り、道を確認しながら足を進める。
ようやくこひなの通っている学校の正門が見え、そこから出てくるコックリさんたちの姿も見え始めた。
安心して距離を縮めるために走り出そうとしたとき、木に隠れる一人の少女が目に入り白蛇は動きを止める。
「……市松こひな……」
『………?』
少女はこひなの名を呼び、まるで行こうか行くまいか迷っているように拳を握りしめている。
さすがに気になってしまい白蛇があの、と小さく声をかけると酷く驚いたようで小さな肩をびくりと震わせた。
「!! っちょ、ちょっと! いきなり話しかけないでちょうだいっ!」
『ええ!? あ、す、すみません…!』
「……って、だ、誰…?」
小柄でこひなと同じ歳であろう少女は白蛇を誰だと凝視する。
『あ、えっと……こひなちゃんを見つめていたものですから、何か用事でもあるのかなーと思いまして…』
「は、は!? べ、別に!市松こひななんてこれっぽっちも興味ないわよ!」
『え?』
少女は焦ったように何度も市松こひななんて!市松こひななんて!と叫ぶ。
隠れていたということは見つかりたくないということだ。あまり大声を出しては気付かれてしまうのではないかと思ったのだが、少女には今そんなことに気付く余裕すらないようである。
「それに! 友達なんて必要ないし!」
だ、だから…。少女は両手の人差し指を合わせたり離したりしながらもごもごと何か呟いていた。
白蛇は何のことだかさっぱりだが、少女にも事情があってのことだろう。色々と察した白蛇は少女に手を差し出した。
「?」
『じゃあ私が貴女の一番のお友達になってあげましょうか?』
「……っえ」
暫しの沈黙。少女ははっとしたように顔を真っ赤にさせたと思えば、白蛇の手を軽く叩き友などいらぬっ!と走り去ってしまった。
失敗したか…と白蛇は頬を掻く。コックリさんたちは帰ろうと此方に歩いてきていたためか白蛇の存在に気付き声をかけた。
「おー白蛇! どうしたんだこんなところで」
『あ……む、迎えにきました!』
「感謝します」
「素直にうれしいって言えよー」
「嬉しくなどありません。ですが感謝します」
ふふっと白蛇は笑い、少女が逃げた――走り去っていた先を見つめる。
また、会えるだろうか。そんな期待を胸に白蛇はこひな達と帰りの道を歩いた。