6.助けられました

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狗神はつい最近こひな家にとり憑いた犬の物の怪である。音を立てずにコックリさんが掃除をしている元へと近づいていく。
こひなに仕え、白蛇を含めて二人への愛情だけで生きている彼の仕事は、一つめ番犬をすること。二つめ毎朝新聞を持ってくること。そして、三つめ。



「おやおや。まだこんなにも埃が」



棚の上を指でなぞり、埃がついた指にふうっと息を吐きかけ言い捨てた。
三つめは、コックリさんに難癖をつけることである。

朝、狗神はコックリさんをいびる。
例を挙げると朝食のときだ。自分もコックリさんの料理を食べながらも味付けが薄いだの昨日より一品少ないだのと難癖をつける。
更に、みそ汁にネギが入っていた場合は命にかかわるため投げ捨ててでも抗議するのが狗神流だ。

昼、狗神はコックリさんをいびる。
コックリさんが今しがたたたんでいる洗濯物にケチをつけ、ろくにたためもしない狗神はたたみ直すというよりはぐちゃぐちゃにしてしまう。

そして、まだ狗神はコックリさんをいびる。
散髪を考えているコックリさんに向かってボソリと「長い方が小じわが隠せますよ?」という悪魔の囁き。

まとめれば、狗神が"ストーカー"以外にしていること――それがコックリさんをいびりまくり、あの世に出戻りさせる計画なのだ。コックリさんが痛む胃を押さえながら睨んでいる姿を見て優越感に浸る狗神。
これが、狗神の生活の一部である。



―――


狗神はいつも自分の主たちにベタベタと付きまとっている狐、コックリさんが邪魔で邪魔で仕方がない。
隠れながらこひなに触られている様子を眺め、怒りを抑えるべく襖を爪で引っ掻く。
だが、視線を少し動かせば狗神は大袈裟に頬を緩めた。



「白蛇様……あの姿でもなんと可愛らしい…」



アニマル姿のコックリさんの隣にいるのは、グッズなどで売られていそうな可愛らしい白蛇。見紛うことなく、あの白蛇は白蛇。狗神の愛する一人の物の怪だ。
こひなの表情にこそ出さないがいつもよりモフモフやプニプニする動作が激しく感じるのは興奮しているからであろう。
先日こひなとプニプニ素材の可愛い蛇になるという約束をしていたのは耳でしっかりと聞いていたが、その姿をこの目で見られることが出来て狗神の気分は最高潮である。
しかしそんな気分もやはりコックリさんのせいで消されてしまう。

狗神は小さくため息をつくと拳銃を取り出しコックリさんに襲撃をすべく襲い掛かる。
我慢の限界らしかった。



「今この場で貴殿の首を頂く!!!」

「上等だコラァ!!」



応戦しようとコックリさんがフライパンを構えるも、笛の音で狗神は止まる。
犬笛のつもりなのだろう、笛の主はこひなで何度か笛を鳴らした。



「狗神さんステイ。ハウスハウス」

『……びっくりしました……』



こひなの吹くピーッという笛の音を聞きつつ、和んだ雰囲気から戦闘の雰囲気に一変し驚いた白蛇が人間の姿に戻ったところを目に焼き付かせる。狗神の至福のひとときだ。
御意、と返事をして言われた通りハウスへと近づく。狗神の帰る場所(ハウス)はこひなの腕の中だった。



「土へ還してやろうか?ペド野郎」



狗神はこの後コックリさんに数回殴られたという。




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