5.やはり苦手でした
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「最近、感情がこみあげてくるときが多々あるのです…。やはり市松は人形としてメンテナンスが必要でせうか」
『……えーっと、メンテナンスという表現はロボットとか機械系のイメージがあるのですが…』
「人形にもメンテナンスという言葉は必要不可欠なのです」
『そ、そうだったんですか…!』
またも自分の言葉をあっさり信じ込む白蛇に、こひなは内心心配になりながらもはいと口にした。
狗神がこひな家に憑いてから一日が経とうとしている。今のところ特に何事もなく過ごせているため、後はこのまま一日が過ぎていくことを祈るだけだ。
何事も起きない、というのは無理な話なのだろうが。
「こひなー、白蛇ー」
こひなと白蛇が居間でおしゃべりをしていれば、アニマル姿で二人の元へとコックリさんが歩いてきた。
昨日は大変だったな、とそれだけ言い手を差し出すコックリさん。どうやら肉球をプレゼントしてくれるらしい。
躊躇いなく差し出された手を取り、肉球と共にモフモフの感触を楽しむ。
「モフモフでござる……プニプニでござる……」
「白蛇もよかったら触るかー?」
『いいんですか? ……じ、じゃあ、お言葉に甘えて…』
腫れ物を触るように手を伸ばし、そっとプニプニし始める。
感動の声が隣から聞こえ、こひなはある提案を持ち掛けた。
「白蛇さんもこういった感じのアニマル姿にはなれないのですか? リアルの蛇の姿ではなく」
『コックリさんのような、ですか?』
「はい。出来ればプニプニ柔らかい素材でお願いします」
「注文が多いぞこひな……」
白蛇は頷き、今度可愛い蛇を調べておきますと微笑んだ。きっとこひなの望みなら、とでも思っているのだろう。
また家にプニプニが増えると思うと嬉しくなり、こひなは更に高速で肉球を押した。
すると突如感じたのは自分へ向けられたものではない殺気。目を追うとそれはコックリさんへと向けられていた。
近付いてみると歯ぎしりをしながら怖い表情を浮かべていた可愛らしいマスコット。こひなが目の前にくるとその表情をおさめていた。
「この様なマスコット、うちにありましたっけ?」
「狗神でございます」
きゅるるんと音がつきそうな可愛さを醸し出してしゃべったマスコットは、よく見ると確かに犬のマスコットのようだ。
こひなと白蛇に愛されるべく、ファンシーグッズを参考にアニマル化したという。そこまでして愛されたいか、と思っていると額へと手を持っていかれる。
そして、こひなはいい意味で戦慄した。
しっとりと柔らかく絶妙な弾力。神かと思えたパウダービーズや低反発商品など足元にも及ばぬ触り心地。言うことなしの百点をたたき出すほどの感触だったのだ。
「なんというマシュマロボディ!」
「さあ、白蛇様も駄狐よりわたくしめをお触りください」
「俺はちゃんとした普通の狐だよ!」
いつの間にか人間の姿に戻っていたコックリさんを横目にこひなは暫くプニプニを堪能した。