3.笑顔をつくりました

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「ただいまなのです」

『おかえりです!市松こひな様市松こひな様ー、今日も一緒に神経衰弱やりましょうっ』

「はい。受けて立ちませう」

『ありがとうございます市松こひな様!』



新たに白蛇が住み憑いてから数日が経った、いつもとあまり変わらない家。変わったと言えば、少し暮らす人(物の怪)が増えたくらいだ。
こひなは学校から帰宅し、真っ先に出迎えてくれた白蛇へ返事をする。懐かれてからというものの、白蛇は事あるごとにこひなについてくるようになったのだ。ずっと一緒にいるが嫌になったことは今のところ一度もない。
勝手にさせておこうと思っているどこかでいつの間にかそれが当たり前になっているらしい。



「……ところで、白蛇さん」

『はい、どうなされましたか?』



居間へ行こうとした足を一度止めて後ろにいる白蛇へと顔を向ける。今は自分の気持ちなどどうでもいいのだ。人形に心はないのだから。
それよりも、今のこひなにとって最も聞きたいことがあった。



「そのフルネームやめてください」



決して白蛇に名前を呼ばれるのが嫌だとかそういうことではないため、一気に青ざめた白蛇に伝える。ほっと息をはいた白蛇に「長いので短くしてくれると助かります」と言葉を付け足した。
"市松こひな様"。さすがに毎度名前を呼ばれる度にフルネームだと、少しばかり抵抗を感じる。せめて苗字か名前だと思い、こひなはこうして口に出したのである。



「フルネームじゃなければ好きに呼んでくれていいです」

『い、いきなり、ですね…。どうしましょう…』



困ったように眉をひそめながら考え込む白蛇を黙ってじっと見つめる。
すると何度かえっと、その、と声をもらしながらも、白蛇は遠慮がちに尋ねた。



『こひな、ちゃん』

「………」

『なんだか、少し近づけたみたいでいいなって思いまして…い、嫌ですか?』



口を開けてから声を出すのに時間がかかってしまったのは、きっとちゃん付けされるとは思わなかったから。想定外だったからに違いない。

「――構いません」
白蛇はそれだけ伝えただけで、にこりと綺麗に笑った。……よく笑う蛇だ。こひなは考えを消すように首を振り、ランドセルを置くべく部屋へ行きませうと歩き出す。
そこで、コックリさんが家事をしていたのだろうエプロンをつけながらおかえりと玄関まで来てくれた。



「学校はどうだった?」

「何もありません」



とりあえずこひなは夕飯のメニューを聞かれたのでカップメンがいいと答えた…が、見事に却下されたのだった。



「白蛇さん、来ないのですか?」

『あ、今行きます!……こひなちゃんっ』




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