7.狸が加わりました

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『あ、あれ…! あのときの…』

「んー? ……おお、ナンパされてた嬢ちゃんじゃねえか」

「ナンパですと…!?」



寝ていた体を起こした男は、紛れもなく先日自分をナンパから救ってくれて、且つ(コックリさんの)お金をねだった人物だった。
狗神は自分の知らぬ間にそんなことがと一度落ち込んでからアニマル姿になり男を威嚇する。
こうした形で現れるということは、この男も自分たちと同じ類なのだろう。白蛇は少し警戒しながら男をじっと見た。



「お帰りください」



そこでこひなが男に帰るように促す。
だが男から返ってくる言葉は酷いものであった。



「おじさん、帰る場所がないんだ。酒と賭博がやめられなくて、無職で妻にも子どもにも逃げ出されて…。もう帰っていい場所なんてないんだ。おじさん……ホームレスなんだ」



それだけ聞いただけで三人の思いは合致した。この男はクズであると。
すると男がこひなに自分を追い出したりしないよな、と迫ってくる。
危機を察した白蛇はこひなが持っていたものを思い出し名を呼んだ。



『こひなちゃん、今こそあれを使うときではっ』

「……わかりました。コックリさんからもらった、敵を追い払うアイテム」



ドヤ顔でこひなが出したのは防犯アラーム。しかし、鳴らしても逃げなければただのアラーム。
助けようと近づいた白蛇と共に、こひなは呆気なく捕まってしまった。



「よし。寝床に飯と女ゲット」



いつの間にやら狗神が男の腕に噛みついていたようで、白蛇はぶらんとぶら下がっている状態の狗神と米俵のように担がれたこひなを見て冷や汗をかいた。
どうやら、こひなはまたもとり憑かれるようである。

そこで料理をしていたであろうコックリさんが防犯アラームの音に気付いたのかやっと登場してくれた。



「こひなー、防犯アラームで遊んじゃだめだ……あ!? げっ、お前は狸おやじ!! 何故ここに!?」

「よう」

「帰れ! 今すぐ四国へ帰れ古狸!!」

「冷たいこと言うなよ旧友」

「うるせェ失せろっ!」



にかりとコックリさんへウインクを飛ばす男。
狗神のときのようにいきなり来た者への態度というよりは、昔からの仲のような態度を取るコックリさんにこひなと白蛇は顔を見合わせた。
こひなの友達なのかという質問に、コックリさんは腐れ縁だと答える。
男の名は化狸の信楽というらしく、昔長屋に住んでいたときの隣の住人だったとか。その際長期留守をしてよく虫を発生させていた部屋を嫌々掃除していたところ…。



『コックリさんがいつでも掃除が出来るように、壁を壊してルームシェアにしたと…』

「そう!俺はこいつと暮らしてさんざん苦労したんだ!」



断固として同居を認めないコックリさん。それもそうだろう、昔散々な目にあったというのにまた一緒だなんて考えたくもないはずだ。
白蛇自身もつい先日大人のはずの信楽にお金をねだられたばかり。あまりいい印象は持っていない。

信楽は負けじとコインやすごろくで賭けを持ち出してきたが、全てがイカサマだった。もはや信じられる要素が見当たらない。



「家政婦つきでせっかくいい家を見つけたと思ったのに」



信楽はドカッと座り込み煙草を吸い始める。そしてこの家は憑き物筋でついていないと愚痴をこぼし始めた。
とりあえず煙草はこひなに害があるため信楽から少し離れさせると、こひなに憑き物筋について問われる。



『憑き物筋とは、動物霊に憑かれ使役する家系のことですよ』

「?」

「メジャーな憑き物はオサキや管狐、狗神でその他色々だ。憑き物筋は他者の幸福を奪う者としてねたまれ畏れられてきた。お前はお前の代から狗神憑きの家系になったわけだ。わかったか?」

「ふむ」



付け足してくれたコックリさんの詳しい説明を最後まで聞いたこひなは一度頷くが、すっと人差指を出した。



「もう一度日本語で説明してください」

「日本語だったが?」



こひなには少し難しかったようだ。

その後聞いた話では、狸としてよその家についていた信楽は家の全財産を万馬券にぶち込み、その家をつぶしたという。
もはや白蛇は開いた口が塞がらなかった。これほどまでにダメな大人を白蛇は見たことがあっただろうか。



『……ここじゃない家、探すのお手伝いしますよ……?』

「ところで、嬢ちゃんは何の動物霊なんだ?」

『え? し、白蛇、ですが…』

「そうかい、なら蛇の嬢ちゃん。よかったらおじさんとこれからデート」

「させるわけないだろ!」

「白蛇様とデートしてよいのは私だけでございます!!」

「狗神お前は黙ってろっ!」



コックリさんに助けられた白蛇は明らかに自分の家のようにリラックスしている信楽を見て確信した。この男、このまま住むつもりだ。
ナンパから救ってくれたことは感謝しているが、それとこれとは話が別である。
白蛇がむくれていると信楽はじっと見つめてくるこひなに狙いを定めた。



「お嬢ちゃん。泊めてくれたらこれをあげよう」



差し出されたのは一万円札。こひなはこれで54カップメンが買えると喜んでいるように見えたが、お札は葉っぱをお札に見せただけの偽札で葉っぱになったのを見てこひなはしばらく呆然としていた。

三日後。未だにスネているこひなに、やはり住み憑いた信楽は尊敬したようにすげえと呟く。
コックリさんはかんかんに怒り謝るよう信楽に怒鳴った。



「あやまれ!うちの子にあやまれ!」

「えー。めんどくさい」

『…でも、あのままじゃこひなちゃんがかわいそうです…』

「――蛇の嬢ちゃんが言うなら、仕方ねえな」



謝る気になったのか信楽は懐からカップメンを一つ出しこひなへ差し出す。
そこまではいい。だが嫌な予感しかしなかった。
なぜ懐からカップメンが出てくるんだという疑問はすぐに解消されることとなる。

ぽんと音をたててカップメンは葉っぱとなった。



「……許すまじ狸め」

『食べて落ち着いてくださいこひなちゃん…』

「狸だから人を化かすのが好きなんだ。あんまかかわらない方がいいぞ」



コックリさんはなんとかこひなを元気づけようと台所にて紅のきつねうどんを作ってあげた。
食べながら考える素振りを見せるこひなに白蛇がどうしたのかと尋ねると、信楽もアニマル姿になれば怒りが癒し効果で相殺されるかもしれないと言う。
そう言われると見てみたくなってしまい信楽に頼んだはいいものの、可愛くないアニマル姿の信楽と追いかけっこをすることになってしまった。こひな風に言うなれば、いと煩わし。




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