7.狸が加わりました
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こひながコックリさんのために降霊術である"コックリさん"をやろうと言い出せば、従順な白蛇は"コックリさん"をやるために必要な紙と十円玉を取ってくると言ってくれた。
ある場所を伝えると小走りで取りに行ってくれたためこひなはじっと座って待つことになる。そこでこひなはある視線を感じた。
この痛いくらいの視線の正体など、言わずとも分かるものであるが。
「我が君、我が君ー」
居間の襖からちょこんと顔を出したのはもちろん狗神であった。
女の子の姿でわざとらしく体をくねらせ可愛さアピールをしてくるのが何とも言えない気分にさせてくるが、こひなは一応どうしたのかと聞いてみる。
すると狗神はいきなり悲しそうに眉を八の字にしてこひなに泣きついた。
「聞いてください我が君! 白蛇様が最近冷たいのでございますーっ!!」
「……そうでせうか」
やはり今回もそんなものか、とこひなが無視すれば更に泣き自分の胸に顔をうずめてこようとした狗神に待てを命令した。
大人しくしゅんと耳を垂れさせながら命令を守っている狗神を見て仕方ないと思い助言をしようと口を開く。
「狗神さん。最近狗神さんは男の姿でいるときが多いです」
「え、このようにですか?」
狗神が女から男になり首を傾げたためこひなはこくりと頷く。
「然り。白蛇さんが冷たいのは、それが原因なのですよ」
びしっと狗神へ指を差した途端、狗神がはっとした。
思い当たる節があるらしいがそれも当たり前だ。白蛇は男の狗神を避けているのだから。
こひながもう分かりますよね?と問えば、狗神は小さくはいと呟いた。
「男の私が美形すぎて、結婚したくてたまらないのですね…!」
「狗神さんは想像が豊かすぎです」
本当のことを言ってやろうかとも思ったが、これは自分ではなく本人たちでどうにかするものだろう。
こひなは人形なりにそれを感じてあえて正解は言わない。
「正解に近いような、全く近くないような感じなのです」
「ど、どういうことでございましょう!?」
「では、今度本人に直接聞いてみればどうでせう?」
「なるほど!さすが我が君っ」
上手く話を誤魔化すことが出来たこひなはそろそろ帰ってくるであろう白蛇を出迎えるため、襖へと目をやる。
あとは二人でなんとかしろ、の合図でもあった。
「(狗神さんはこういうとき察しが悪くて困るのです)」
―――
『あ、あの……』
「どうかしたのですか、白蛇様……はっ! まさか体調が優れないとか!?」
『……いえ、その…ち、近いです』
自分がいざ"コックリさん"をやろうとした直後、戻ってきた白蛇の隣に狗神が正座をした。
距離はほぼゼロに近いためか白蛇がやけにそわそわしている。本当に見ればみるほど乙女だ。
「狗神さん、白蛇さんから離れなさい」
「よく考えてみてくださいこひな様。どんなに逃げられてもこうして寄っていけばいつかは私の気持ちが伝わり、そしてハッピーエンドに…っ!!」
「なりません」
小声でこひなへ同意を求めてきたが、あっさりと一蹴する。
狗神の反対の声を無視して白蛇を自分の横へと移動させ、白蛇、こひな、狗神の順で座った三人は十円玉へと指を置く。
そのあとで今更ながら狗神が疑問を口にした。
「あの…我が君。狐殿を呼ぶなら台所へ行った方が早いのでは?」
これは白蛇も多少は思っていたようで、数回頷かれる。
今回はコックリさんを呼ぶことが目的ではない。最近のコックリさんは狐らしさが全くなく、設定が生かせてないと思ったためにこうして"コックリさん"をするのだ。
二人にそう言えば納得してくれたため、こひなはもう一度言葉を発した。
「コックリさん、コックリさん。おいでください」
刹那、ドロンと近くで煙が舞った。三人が一斉に其方を見れば、いたのはコックリさん…ではなく。
「呼んだか?」
酔ったおじさんであった。見知らぬおっさんが召喚されたらしい。
「チェンジ」