6.助けられました

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狗神を散歩に連れていって二日が経った。三日目になる明日の狗神の散歩は白蛇が担当することになっている。

コックリさんと夕飯の準備をしていると、お米を磨いでいる最中隣で大きな叫び声が聞こえた。
突然の大声にびくりと肩が震え何事だと隣にいる人物、コックリさんを見上げる。当の本人は火元の前で顔を青ざめていた。



『ど、どうしたんですか…?』

「……不覚だ」

『え?』

「醤油が切れた…」



今日のメニューはこひなのリクエストで肉じゃがらしく、白蛇もその手伝いをしていた最中だ。
こひなは夕食はカップメンを貫き通していたのだが、コックリさんに無言の圧力をかけられたことで諦めた。

コックリさんは空になった醤油のボトルを逆さにしてため息をつきエプロンを脱ぐ。在庫もなかったため買ってくることにしたらしい。
しかしコックリさんは買いにいってくると白蛇に背を向けた途端に立ち止まった。



「白蛇……この後何するべきか分からないよな」

『あ、……す、すみません』



コックリさんがいなくなるということは、お米磨ぎ以外コックリさんの手助けしか出来ない白蛇しかいなくなるため料理の準備は一時中断。
夕飯が遅くなってしまうことを気にしているのが伝わってきて、白蛇は少し考える。
ここはちょっとくらい味が薄くても大丈夫ですよ、と言えばいいのだろうか。
しかし狗神にネチネチと言われるコックリさんが想像できてしまいむやみにそんなこと言えない。
……であれば。



『コックリさん、コックリさん』

「?」

『私に任せてください』



―――


既に日が暮れそうな空を見つめて早く買って帰ろうと足を速める。
自分が何も出来ないのなら自分が買いにいけばいい。それが白蛇が考えたなりに出した答えだった。

はじめはコックリさんに女の子一人でなんて危ない!と猛反対されたが、なんとか説得して今白蛇はおつかいしている。
コックリさんと買い物なら数回ほどやっているし、蛇のときに人間がお店で買い物をしている姿は幾度となく見ていた。
一人も二人も変わらないだろうとコックリさんが持たせてくれた財布の入っているエコバッグを持ち直して何分か歩けばいつもお世話になっているお店が目に入る。

白蛇が一人でお店にくるのが珍しかったのか店主は少々驚いていたが、訳を説明すると代わりに詰め替え用の醤油を持ってきてくれた。
店主の優しさに安心しながらもう一度空を確認する。急いで帰れば日が沈むことはないだろう。
お金を渡し醤油を受け取ると、お礼をしてから家へ向かう。
既に街灯はともり、夜になるのは時間の問題だ。一人でも買い物が出来てよかった、と思っていたときだった。



「ねえ、ちょっといいかな」



曲がり角を曲がろうとしたところで、誰かの手が肩に置かれる感触がして白蛇は振り向く。
しかし白蛇は見たことのない顔の男性に戸惑い、人違いだと指摘をしようと口を開いたが男はそれを遮るように話し始める。



「こんな時間に一人は危ないと思うよ」

『え、っと……すみません』

「送ってあげるから、その前に少し遊んでいこうよ」



これは聞いたことがあった。もしや自分は人生初のナンパというものにあっているのではないか。
知識はあったものの、されたことがなかったために対処の仕方が分からない。

何も言わない白蛇の腕を肯定だと思い込んだ男に掴まれる。
早く帰らなければいけないのに。白蛇はどうしようと一歩後ずさる。
すると、後ずさった瞬間背中に温もりを感じると共に首元に前の男とは違う腕が回されていた。



「なっ…」

「悪ぃな嬢ちゃん、一人で行かせちまって。早く帰ろうぜ」

『わ…っ!』



悪いなあと謝る男の姿にももちろん見覚えはない。焦茶色の着物を着ていてお坊さんのような雰囲気を醸し出していた。
だがこの男はナンパの男とは違うらしく、どこか助けてくれているようにも見えたのだ。
知り合いか彼氏とでも勘違いしたのか、ナンパの男は舌打ちをして逃げていってしまう。とりあえずは助かったようだ。



「危なかったなー嬢ちゃん。大丈夫か?」

『…あ、あの』

「ん? …ああ、忘れてたぜ」



本当に助けてくれた男は、白蛇が遠慮がちに首元を指さすと回していた腕を離した。
男がタバコ取り出し火をつけてくわえたため、正面から向き合うと独特の臭いが鼻をかすめる。
まずはお礼だと思い白蛇は頭を下げた。



『あ、ありがとうございました』

「最近は物騒だから気をつけな」



気にすんなと人当たりのいい笑顔を浮かべぽんぽんっと頭に手を置かれ撫でられる。



『お名前、教えていただけますか?』

「んー?」



今度また会うかもしれない。気になったのもあるが、名前を聞いておこうと尋ねた。
男はタバコの煙を口から吐き出すと、白蛇に向かって左手を出す。



「後で教えるから、とりあえずおじさんにお金くれない?」



白蛇はこの後全力疾走した。

結局帰りが遅いことでコックリさんに心配され、ナンパをされて助けられたことを言ったらオカンが発動されしばらく一人で外出禁止になってしまった。
狗神は頼れないというコックリさんの意見で狗神との散歩もなしになり、これからはこひなだけで狗神の散歩へ行くことになったらしい。

四日目、こひなが散歩に飽きて放置し、白蛇とも散歩へ行けなくなった事実を知った狗神が再び荒んだのは言うまでもない。三日坊主であった。




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