6.助けられました

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お昼のときコックリさんに「狗神の小屋にはなるべく近づくな、入るな」と念押しされたのが些か気がかりだったが、
昼食も終わり狗神を除いたこひな達は庭を眺めることのできる渡り廊下で、狗神をどうするべきかを話し合っていた。



「狗神さんの言動には困ったものです」

「お前の命令も聞かないしな」

「然り」



狗神の耳は都合の良い言葉しか通さないように出来ている。
遊ぼうなどの言葉は喜んで聞いてくれるが、契約解除などの自分にとって不都合の言葉は全て聞かなかったこととして捉えるのだ。
白蛇も生活を通じてそれが分かるようになってきた。狗神の男の姿が苦手な白蛇は出来る限り会わないように狗神を避けているため命令などしたことはない。



『どうすればいいんでしょうか…?』

「もはや狗神さんを矯正するしかありませぬ」



相談を続けているとこひなはすくりと立ちあがり語り始めた。
先日街外れの古書店に呼ばれた気がして中へ入ると、そこで狗神を操る極意が記された奥義書を見つけた、と。
そんな本が売っているものなのかと疑問に思いつつ、こひなの取り出した本をコックリさんと確認した。



「この奥義書があれば…可能…!!」

「ただの犬の調教本じゃねーか!!」



――犬の気もてぃ。特価百円で買えたらしい。



『狗神さんも一応人並みに知能はあるんですし、さすがにそれは使えないんじゃないですかね…?』

「その前に扱いが酷すぎだろ…」

「ですが、狗神さんは紳士の皮を被った犬なのです。サイレンが鳴れば遠吠えをしますし、市松の靴はもちろん大嫌いなはずのコックリさんの草履にまでじゃれつき、かなり楽しそうに庭に埋めているのを見たことがあります」

『あー、確かに時々夜に遠吠えが聞こえますよね!』

「なのです。その姿はまさにわんわん」

「見てないで止めろよ!!」



お気に入りの草履を埋められていたと知ったコックリさんは絶叫する。
まずは本に書いてあった"お手・おすわり"で調教しようというこひなの提案で狗神の調教が始まったが、ムチ打ちを希望していた狗神によって言葉での調教――矯正は無駄になったのだった。

それから数十分が経ったころ、白蛇は興味本位でこひなから借りた犬の気もてぃを読み進めていると散歩についての特集が目に止まった。
言葉がダメなら行動で。散歩についてのページをこひなに見せつつ問う。



『こひなちゃんこひなちゃん』

「なんでせう」

『犬の散歩はストレス解消に絶対必要、らしいですよ。これなんかどうでしょうか?』

「そうだったのですか。お散歩をすればきれいな狗神さんに生まれ変わるはずなのです」



こひなに親指をたてられ自分の意見を採用してもらったことに嬉しさを感じこひなにお礼を言う。
面倒ですがこれも狗神さんのためです、とこひなは狗神のいる小屋へと足を進めた。
白蛇も自然とついていく流れになりこひなの後ろを歩く。男の姿でないのを確認してから(今は女の姿らしい)小屋の前で佇んでいる狗神を呼んだ。
二人の姿を見るなり尻尾を振り、用件を尋ねてくる。



「狗神さん」

『これからは毎日お散歩しましょう』

「!」



この日から狗神のお散歩が始まることとなった。




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