3.笑顔をつくりました
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神経衰弱を二度ほど行い、飽きてきたためにトランプを片付けた直後、コックリさんが突如言った。
「お前を真人間にしてやろうか!?」
泣く子も黙る恐ろしい顔で言い放つコックリさん。白蛇が口をあんぐり開けて、すぐさまこひなが隠れたカーテンへ来て自分にひっついた時間はわずかコンマ二秒。あの顔は見てはいけなかったと思う。
コックリさんも二人の怯えように若干焦ったようだったが、こひなに近づき言葉の意味を説明した。
なんでもこひなの将来を心配して、中二脳を矯正したいらしい。愛故に。
つまりはこひな真人間化計画を進行したいのだ。
「人形は幸せも不幸も求めません。迷惑です」
『こひなちゃんって人形なのですか…!?』
「市松こひなは人形なのです」
『な、なるほど…』
「いやどう見ても人間だ! なー、もう人形設定ポイしちゃえよ。人形だと言い張るなら証拠を見せろ!」
コックリさんは一瞬だけ白蛇の"こひなちゃん"呼びに驚いた様子だったが、真人間化計画の遂行を優先にしたらしくこひなに問いただす。
少しは動じると思っていたのだろうが、こひなはそこまで甘くなかった。
「では逆に、コックリさんがコックリさんだという証拠を見せてください」
見事には?と食いついてくれたコックリさんにこひなは内心にやりとしながら指を指した。
突然現れたのに、不自然なまでに自分に都合がいいこと。孤独な少女の歪みが生んだ幻覚ではないのか。本当はコックリさんなんて存在していないのでは。
率直にズバズバと言葉を並べていくこひなに、コックリさんの顔は徐々に真っ青になっていった。
仕舞いには不安すぎて心が折れたのだ。おおっと白蛇になぜか尊敬の目で見られたが、とりあえず話にそらすことに成功したこひなは小さくガッツポーズをした。
「せめて笑顔の練習をしよう。お前いつも無表情だし」
『そういえば…私、こひなちゃんの笑顔とか見たことないです』
「だろ? 爽やかな笑顔は真人間への第一歩だ。せっかく可愛いんだから、笑わないと勿体ないぞ」
それに俺は、お前の笑顔が見てみたい。口角を上げさせようとびよーんっと頬が伸ばされながらコックリさんに告げられる。
「面倒なのでやです」と本心を口にしたところ、コックリさんは意を決して行動に出た。
――大人の男の号泣だ。
『……こひなちゃん、コックリさんいいんですか?』
「市松は構わないのですが、ご近所から苦情が来ました」
延々とアニマル姿になって何時間も泣き続けるコックリさんに、こひなは仕方ないと笑顔の練習を始めることになった。
条件は肉球を触らせること。さっそく、コックリさんは人間の姿になりこひなの真人間化計画を始めた…ように、思えたのだが。
「とりあえずは俺の真似してみろ。ほら」
こひながコックリさんの言う通り笑顔を作った途端、白蛇とコックリさんの間で冷たい空気が走った。
福笑いのようにパーツがずれたり、はたまた力みすぎて落ちたり。こひなとしては一生懸命やっているつもりだったが、気付けば二人に全力で謝られていた。
「なんか無理言ってごめんな?」
『こ、こひなちゃん。私はいつも通りのこひなちゃんが大好きですから大丈夫ですっ』
「笑顔はもういいから。肉球も触っていいから」
パーツを動かさず笑うことが出来なくて、諦められていたのだ。